当該年度の研究の目的は,結び目のさまざまな量子不変量の結び目コボルディズムに関する位相的性質を明らかにすることである。研究内容は以下の3つに大別される。 (1) 空間グラフの位相的性質の研究:空間グラフの量子不変量を用いた結び目コボルディズムに関する研究を行っている。結び目の極大サーストン‐ベネカン数は結び目コボルディズムと深い関係をもつ。前年度の研究の応用として空間グラフの不変量を定義した。すべてのサイクルの結び目のサーストン‐ベネカン数が極大となるような埋め込みをもつとき,空間グラフはmTB極大であるとする。この性質は空間グラフの不変量である。今年度はmTB極大でない例を手錠グラフの埋め込みとして構成した。さらに,空間グラフがmTB極大でないための十分条件を元のグラフの性質により与えた。この研究については論文として作成し,学術論文誌に投稿済みである。 (2) 結び目のゴルディアン距離の研究:二つの結び目の関係を表す結び目のゴルディアン距離についての研究を量子不変量をもちいて行った。具体的には量子不変量であるジョーンズ多項式やQ多項式,及びラスムセン不変量による評価式を示し,いくつかの計算例を与えた。この研究については論文として作成し,当該年度の大学紀要として発表済みである。 (3) 結び目の対称和の研究:前年度までの研究により,結び目の対称和のジョーンズ多項式の公式が得られていた。今年度はこの公式を詳細に調べることにより,その微分の-1及び虚数単位Iにおける値に関する特徴づけを行った。この研究については論文として作成し,学術論文誌に投稿済みである。 (4) 4次元多様体内のスライス結び目の研究を通して,非コンパクトな4次元多様体の微分構造の特徴づけを行った。結果として,複素射影空間の無限個の連結和にエキゾチックな微分構造がはいることが分かった。
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