研究課題/領域番号 |
23740047
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研究機関 | 名古屋工業大学 |
研究代表者 |
松添 博 名古屋工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (90315177)
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キーワード | 統計多様体 / 捩れを許す統計多様体 / アファイン微分幾何学 / アファイン分布 / 情報幾何学 / プレコントラスト関数 / Tsallis統計 / 非可積分推定関数 |
研究概要 |
統計多様体の幾何学について,可積分系,非可積分系の両面から構造解明を行うことが本研究の目的である. 近年の複雑系科学に頻出するべき型分布族の幾何学を理解するためには,統計多様体の一般化した共形構造など,可積分系理論が必要であると考えられる.また,データからは直接観測されない隠れ変数が存在する推定理論には,捩れを持つアファイン接続など,非可積分系の理論が必要であると考えられる.そこで本研究では,これら統計モデルの幾何学を具体例として,統計多様体の幾何学の解明を目指す.さらに可積分幾何学と非可積分幾何学の双方を同時に扱うことにより,それぞれの幾何学の特殊性なども議論する. 上記の研究目標達成のために,平成24年度は主に可積分系の統計多様体の幾何学を考えた. 統計モデルに自然に導入される代表的な統計多様体の構造は,標本空間の確率測度の選び方に対して不変となる不変統計多様体の構造,および双対平坦性を持つ平坦統計多様体の構造という2種類が知られている.これら統計多様体の構造に関して,平坦統計多様体が不変統計多様体と共形同値になる統計モデルは,q-指数型に限ることがわかった. また,q-指数型分布族をはじめとする変形指数型統計モデルは,複数の異なる平坦統計多様体の構造を持つことが知られている.非可積分系の統計多様体の幾何学における推定関数の理論を,これらの平坦統計多様体に応用し,推定関数からのコントラスト関数の構成を行った.さらにこの考察から,確率変数の期待値や独立性という概念は絶対的なものではなく,統計モデルの構造に応じて修正することが自然であることがわかった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成23年度の研究目標は可積分統計多様体,および非可積分統計多様体の具体例を構成や,それらの基礎的性質を解明することであった.また,平成24年度の研究目標は可積分統計多様体の幾何学を考察することであった.特に,統計多様体の一般化した共形構造と,Tsallis統計学における統計モデルの幾何学の関連の解明を目標としていた. 研究実績欄でも述べたように,平成24年度はTsallis統計学における統計モデルの幾何学を考察し,q-指数型分布族に自然に導入される統計多様体に関して,その共形構造の特殊性がわかった. また,可積分統計多様体と非可積分統計多様体の幾何学を同時に考察することにより,それぞれの幾何学の関連なども解明することも目標にしていた.推定関数の幾何学はもともと非可積分統計多様体の構造を理解するために考察していたものであったが,これを可積分統計多様体の理論に応用し,ダイバージェンス関数の構成などを行った.
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度は主に非可積分系の統計多様体の幾何学を考える. 初めにアファイン分布の幾何学の一般理論と,捩れを許す疑似統計多様体の可積分条件を考える.その考察をもとに,統計多様体の不可積分性などを表す特徴量などについて考える.また,非可積分幾何学の推定関数の理論などへの応用も考えるために,微分形式の幾何学,特にシンプレクティック幾何学と統計多様体の幾何学との関連などについても調べる. 平成26年度は研究の仕上げとして,可積分系と不可積分系の統計多様体の幾何学の関連を考える.可積分系の幾何学と不可積分系の幾何学は全く独立ではなく,アファイン微分幾何学を通して互い関係している.平成25年度までに得られた結果をもとに,統計多様体の幾何学を発展させる. 研究内容の細部については,本研究の進展状況や関連分野の発展状況も考慮し,適宜見直しを行いながら研究を推進する.
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度に研究申請当初に計画されていなかった国際会議が開催されることになった.また,新しい研究打ち合わせの必要性なども生じた.これらの国際会議等に参加し情報収集,研究打ち合わせを行うことは,本研究の推進には大変有用である.そのために,外国旅費を中心に研究費を執行する予定である. 複雑系科学と関連した可積分統計多様体の幾何学,およびデータからは本質的に決定できない空間を含む統計モデルに関連した非可積分統計多様体の幾何学は,その必要性が急速に増加していると考えている.このような状況の中で,国際会議等に出席し最新の関連研究成果について情報収集を行うことは,研究遂行上必要である.次年度も旅費を中心に予算を執行予定である.また,情報収集のために書籍等も購入予定である.さらに研究の進展に応じて研究成果を公表する必要もあるため,論文別刷り費や印刷費等にも研究費を使用予定である.
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