研究課題/領域番号 |
23740048
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
太田 慎一 京都大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (00372558)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2015-03-31
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キーワード | リーマン幾何 / フィンスラー幾何 / 曲率 / 熱流 / 最適輸送理論 |
研究概要 |
今年度は,研究実施計画で触れていた一般化された相対エントロピーの凸性についての高津との共同研究,及びフィンスラー多様体の重みつきリッチ曲率の研究において以下のような成果を得た.まず高津との共同研究では,情報幾何に現れる非常に一般的なエントロピーの族に対して,それらを適切なクラスに分類し,その各クラスに含まれるエントロピーの確率測度のなす空間での凸性が,底空間のリッチ曲率の下限を用いて特徴づけられることを示した.これにより以前の結果の見通しが良くなり,また関数不等式や発展方程式への応用も得られる.フィンスラー多様体の重みつきリッチ曲率の研究では,Cheeger-Gromoll型の分解定理を示した.リーマン多様体でのCheeger-Gromollによる分解定理は,リッチ曲率が非負で直線を含む多様体は直線との直積に分解されるというものであり,古典的かつ極めて重要な仕事として知られている.フィンスラー多様体でも重みつきリッチ曲率を用いて類似の分解を行うことができ,またベッチ数の評価についての応用も得られる.重みつきリッチ曲率を下から押さえることは曲率次元条件と同値であるが,曲率次元条件を満たす一般の測度距離空間については同様の分解定理は知られていない.よってこのフィンスラー多様体での研究は曲率次元条件を満たす測度距離空間の幾何構造の研究への示唆を与えるものでもある.更に,ヒルベルト幾何・Funk幾何という具体的なフィンスラー多様体の重みつきリッチ曲率を計算した.これらのフィンスラー多様体は負定数の旗曲率(リーマン幾何における断面曲率の一般化)を持つことが知られており,幾何的・力学系的な性質が研究されている.そこで具体的な測度を固定してそれに対する重みつきリッチ曲率を計算し,ヒルベルト幾何ではそれが上下から押さえられ,Funk幾何では負定数になることを示した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績に挙げた成果はいずれも当初の目的に沿ったものであり,研究は着実に前進している.分解定理はリッチ曲率の比較幾何で最も重要な役割を果たすものであり,重みつきリッチ曲率の研究を始めた当初から目標としていたものであった.また,具体的なフィンスラー多様体の重みつきリッチ曲率の評価は容易な例を除いては行われておらず,ヒルベルト幾何・Funk幾何での計算は他の具体例の研究にもつながることが期待される.
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今後の研究の推進方策 |
今後も,今年度の研究成果も踏まえながら,当初の計画に挙げていた方針で研究を進めて行く.特に,具体例の重みつきリッチ曲率についてヒルベルト幾何・Funk幾何で結果を得ることができたので,ノルム空間の単位球面やタイヒミュラー空間での研究に進んでいきたい.また,フィンスラー多様体を越えた一般のラグランジアンの研究に向けた準備も始める.
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次年度の研究費の使用計画 |
今年度は国内での研究活動を重視したため,旅費の使用が予定より少なくなった.残った分は主に次年度以降の海外での研究活動に使用する.また,主催者の1人として国内で研究集会を開催する予定である.
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