研究課題/領域番号 |
23740048
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
太田 慎一 京都大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (00372558)
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キーワード | 曲率 / ハミルトン系 / 熱流 / 勾配流 / アレクサンドロフ空間 |
研究概要 |
今年度はまず、前年度から始めていたハミルトン系の曲率についての研究に取り組んだ。ハミルトン系の曲率はAgrachevとGamkrelidzeらによって研究されており、最近Leeがリッチ流の解析に応用してその重要性が見直されている。本研究では、Leeの示したリッカチ方程式や太田(研究代表者)らによって発展したフィンスラー幾何における技法を駆使することで、ラプラシアンの比較定理や熱流の性質などについての成果を得た。これは非常に一般的な枠組みであり、特別な例として近年活発に研究されてきているpラプラシアンを含む。 更に、曲率についての異なる方向性の研究として、通常は次元の上限と解釈される定数Nが負の場合の曲率次元条件CD(K,N)を導入し、その性質を調べた。ここで、Kはリッチ曲率の下限と解釈される。この条件はほぼ同時にE. Milmanらも取り上げ、異なるアプローチからの研究を行っている。Nが負の場合のCD(K,N)はとても弱い条件で適用範囲が広いが、その分従来の曲率次元条件とは異なる現象も起こり得る。本研究ではボホナー不等式や重みつきリッチ曲率の下限との同値性などの成果を得たが、まだわかっていないことも多い。 その他に、9月よりポスドクとして受け入れたMiklos Palfiaと共同で、曲率を上や下から押さえたアレクサンドロフ空間上の凸関数の時間離散的な勾配流の性質(最小点への収束やその速さなど)を調べた。曲率を上から押さえた場合はPalfiaやSturmの結果の拡張になっている。一方、曲率を下から押さえた状況ではこのような研究は行われておらず、得られた成果は代表者にとっても驚くべきものであった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ハミルトン系の曲率についての研究は本研究課題の当初から予定されていたものの1つで、想定通りとはいかないまでも現時点としては満足できる結果が得られた。フィンスラー幾何での技法を適用するに当たり、適切な定式化や技術的な細部の詰めに想像以上に時間がかかり、また本質的にフィンスラー多様体とは異なる現象が起こることもわかった。この研究で扱ったハミルトン系は非常に一般的な対象であり、得られた結果をpラプラシアンを導くもののような特殊なハミルトン系で精密化するための良い道標になるであろう。 Nが負の場合の曲率次元条件は、本研究課題で行った以前の研究での着想を元にしたものである。これは直観的には意味がないように思われる条件だが、ユークリッド空間上の関数不等式の研究では既に扱われていた。今回の成果は既知の技法をNが負の場合にどこまで適用できるかを確認したものであり、これを基にした理論の発展と一般論の構築が待たれる。幾何解析や勾配流の観点からは、Nが負になることを許すと扱える対象がとても広くなり、極めて有用である。 Palfiaとの共同研究も本研究課題に関係の深いものである。また、勾配流を扱うことから、Nが負の場合の曲率次元条件の研究とも関係する。この研究で用いた(主にPalfiaによる)最適化理論の手法は、最適輸送理論や熱流の研究への応用も期待できる。
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今後の研究の推進方策 |
現在は、個人としては以前から計画に挙げていたフィンスラー多様体の極小曲面の研究を行っている。フィンスラー多様体の極小曲面の研究は特殊な場合を除き殆ど行われておらず、一般的な枠組みでの理論の構築には多くの時間が必要である。既に幾何解析的な枠組みがリーマン多様体と同じように作れることについては研究が進んでいるが、極小曲面の正則性については幾何学的測度論の深い知識が必要であり、それを進めることが当面の課題である。 並行して、Palfiaとの勾配流についての共同研究も進めている。時間離散的な勾配流の極限として現れる時間連続的な勾配流の性質を調べることや、これをより広い空間(フィンスラー多様体や一様凸な距離空間など)に拡張することを目指している。 これらの研究の合間を縫って、今年度の成果であるハミルトン系の曲率と熱流や、Nが負の場合の曲率次元条件の研究も進展させていきたい。どちらについても、興味深い具体例の提示や、今年度に得られた結果の精密化や応用によって、理論の発展を促したい。
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次年度の研究費の使用計画 |
自身の研究とポスドクとして受け入れ中のMiklos Palfiaとの共同研究に集中したため、旅費の使用が予定よりも少なかった。 次年度も出張を減らす可能性があり、その場合は共同研究者の招聘や主催者の1人として開催する研究集会(「確率論と幾何学」)に多くの研究費を使用する計画である。
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