離散群の非正曲率空間への任意の等長作用が固定点を持つための十分条件の一つに、有限グラフのスペクトルギャップの非線形の類似物を評価するという方法がある。このため、有限グラフの非線形スペクトルギャップを評価することが研究の目的の一つであった。そのための一つのアプローチはWirtingerの不等式(正確には、Gromovによる離散類似)を用いるというもので、Pansuはこの手法でいくつかの有限グラフに対して非線形スペクトルギャップのシャープな評価を得ている。この手法がどの程度他のグラフでも使えるのかを調べるために、まずWirtingerの不等式の証明を見直し、パラメータが小さい特殊な場合にはWirtingerの不等式は本質的に非正曲率空間上の4点の間の距離が満たす不等式から導くことができることが分かった。 また、この理解に基づいて、A3型のコクセター複体の1スケルトンに対して非線形スペクトルギャップのシャープな評価ができることが分かった。この値は線形のスペクトルギャップに等しく、An型のコクセター複体に対する我々の予想の一部が証明できたことになる。この計算はより一般のコクセター複体や球面的ビルディングに対する評価を得るうえで本質的なステップであると考えられる。 また、線形のスペクトルギャップの評価法の一つであるSaloff-Costeの方法を非線形化することができ、これを用いることで、木の非線形スペクトルギャップの評価もできることが分かった。これに関してはまだ評価は粗いと思われるので、今後、より精密な評価をする必要がある。
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