研究課題/領域番号 |
23740055
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研究機関 | 香川大学 |
研究代表者 |
野原 雄一 香川大学, 教育学部, 准教授 (60447125)
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キーワード | 完全可積分系 / トーリック退化 |
研究概要 |
1. Grassmann多様体上の完全可積分系とその退化 昨年度は複素2次元部分空間のなすGrassmann多様体上に完全可積分系とその“トーリック退化”を構成した。つまり、多様体としてのトーリック退化(Speyer-Sturmfels により分類されている)それぞれに対して完全可積分系が存在し、それが退化の下でトーリック多様体の標準的な可積分系(運動量写像)に変形できるということである。またその応用として、トーラスファイバーに対してポテンシャル関数と呼ばれるものを計算した。特別な完全可積分系の場合のポテンシャル関数は Eguchi-Hori-Xiong により(別の手法で)計算されたミラー対のスーパーポテンシャルに一致している。今年度は異なる完全可積分系の像(凸多面体になる)を互いに写す区分的線形写像を構成し、さらにそれがトロピカル化となるような変数変換で対応するポテンシャル関数が写りあうことを証明した。また、トーラスではないファイバーに対する理解も進んできている。これは植田一石氏(大阪大学)との共同研究である。 2. 放物的ベクトル束のモジュライ空間 射影直線上の階数2の放物的ベクトル束のモジュライ空間上には Goldman により構成された完全可積分系が存在する。昨年度は放物的重みが小さい場合に、これが多角形空間(3次元ユークリッド空間内の多角形のモジュライ空間)上の完全可積分系に変形できることを証明した。多角形空間上の可積分系はトーリック多様体の運動量写像に変形できるため、Goldman の可積分系もトーリック退化を持つことが分かる。今年度は拡張モジュライ空間と呼ばれる概念を使って、上の事実のより明解な別証明を与えた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Grassmann多様体の場合は完全可積分系にトーラスではないLagrangeファイバーが現れるが、これはトーリック多様体の場合には見られないことであり、これを調べることは一般の場合を理解するために重要な問題である。また、異なる完全可積分系に対するポテンシャル関数の間の関係は「壁越え」と呼ばれる現象と関係し、これも調べる必要がある事柄である。上で述べた研究結果の中には当初の計画にはないことも含まれており、部分的に計画の変更や遅れはあるが、完全可積分系とその退化を調べるという研究目的から見れば意義のある結果が得られていると思われる。
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今後の研究の推進方策 |
当初の研究計画に加えて以下の2点について研究する。 ・Grassmann多様体やより一般の旗多様体の場合に、トーラスではないLagrangeファイバーに対するFloer理論的性質を研究する。特にミラー対称性との関係について調べ、トーリック多様体の場合には現れなかった現象を考察する。 ・放物的ベクトル束のモジュライ空間に対してはこれまで調べてきたシンプレクティック幾何的構造と合わせて複素構造の変形まで調べる。
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次年度の研究費の使用計画 |
施設費、消耗品用の費用は主に研究テーマに関わる文献などの消耗品に、旅費については研究集会参加と研究打ち合わせのために使用する。予定額は当初の計画の通りである。
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