研究実績の概要 |
昨年度に引き続き、旗多様体上の完全可積分系であるGelfand-Cetlin系の非トーラスLagrangeファイバーの幾何学を中心に研究を行った。4次元ベクトル空間内の2次元部分空間全体のなすGrassmann多様体の場合は、非トーラスファイバーとして3次元球面と円周の直積と同相なLagrange部分多様体が現れる。FloerコホモロジーはLagrange部分多様体とその上の1次コホモロジー類の組(で適当な条件を満たすもの)に対して定義されるため、非自明な1次コホモロジー群を持つこれらのファイバーに対してはFloerコホモロジーの族が得られる。昨年度はファイバー L 上の同じ1次ホモロジー類 b に対するFloerコホモロジー HF((L,b),(L,b)) を求めたが、今年度は異なるホモロジー類 b, b'に対するFloerコホモロジー HF((L,b),(L,b')) も計算した。またその応用として、非自明なFloerコホモロジーを持つ非トーラスファイバーとコホモロジー類の組 (L,b) たちが、4次元Grassmann多様体内の適当な条件を満たすLagrange部分多様体のつくる圏(単調深谷圏の冪零因子)を“生成”することを示した。すでに多くの研究がなされているトーリック多様体の運動量写像の場合には非トーラスファイバーは現れないため、この結果はミラー対称性において興味深い例を与えると考えられる。また、求めたFloerコホモロジーはいずれもNovikov環と呼ばれるある種の冪級数環を係数とするものであり、一般に計算の困難なFloerコホモロジーの計算例を与えるという点でも意義のある結果だと思われる。これらの結果は植田一石氏(大阪大学)との共同研究による。
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