研究課題/領域番号 |
23740064
|
研究機関 | 大阪市立大学 |
研究代表者 |
秋吉 宏尚 大阪市立大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (80397611)
|
キーワード | 双曲幾何 / トポロジー / 錐多様体 |
研究概要 |
S.P.Tan氏と山下靖氏による数値実験を中心とする先行研究と研究代表者による本研究に対する予備的研究を比較することで,S.P.Tan氏らが導入した階数2の自由群のPSL(2,C)表現空間における「BQ条件」から定まる部分空間と,本研究で構成しようとしているよい基本多面体から誘導される錐双曲構造のホロノミー表現からなる空間が一致することが予想される(秋吉・山下予想).この予想は穴あきトーラスクライン群に対してBowditchにより提起された予想の錐双曲構造の空間への拡張とみなされることから,この予想を肯定的に解決することが,よい錐双曲構造が豊富に存在することの傍証となると期待される.前年度の研究により,秋吉・山下予想の半分にあたる「よい錐双曲構造のホロノミー表現はBQ条件を満たす」ことがすでに証明されていた. 今年度は秋吉・山下予想の残された半分の証明を目指し,韓国および日本国内における多くの研究集会に参加し研究打ち合わせを重ねつつ研究を続けた.その結果,表現空間の実指標に関しては予想が正しいことが証明された.より詳しく述べると,階数2の自由群のPSL(2,R)表現で生成元の交換子積が楕円的元へと移されるものに関する指標多様体に対し,(1) 初等幾何的なパラメータづけを与え,(2) 各指標は像が共通固定点を持つような「初等的な」表現,あるいはよい基本多面体から誘導される表現のいずれかにより実現されることを証明した.ここで,(2)の結果のうち,「よい基本多面体から誘導される」部分以外はGoldmanによる先行研究により得られているが,本研究ではTan-Wong-Zhangによる一般化されたMarkoff写像の研究を応用することで,その別証明をより精密な形で与えることに成功した.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績の概要でも述べた通り,錐特異点を1点だけ持つトーラスの基本群のPSL(2,C)表現に対し,それがよい基本多面体から得られる錐双曲構造のホロノミー表現であることと,それがTan氏らにより導入されたBQ条件を満たすことが同値であるだろうという秋吉・山下予想について,昨年度証明に成功した半分に加え,今年度は逆向きの一部にあたる実指標に対する部分を肯定的に証明することに成功した.その証明においては,実指標に対応するよい基本多面体の幾何的性質に対する精密な考察が行なわれたので,その外部での考察に対する基礎的考察として重要な研究が進められた.また,実指標に対応する錐双曲構造は,固定される部分空間から自然にコンパクトな凸核を持つことがわかる.今後の研究では,ここで得られた基本多面体と,Moroianu-Schlenkerにより示されたコンパクトな凸核を持つ錐双曲構造の局所変形理論との考察を進めていく重要な手がかりが得られたことにもなる.
|
今後の研究の推進方策 |
今後の研究は以下の2点の解明を中心的課題と位置づけて進めていく予定である. 1つめは前年度,今年度に引き続き,錐特異点を1点だけ持つトーラスの基本群のPSL(2,C)表現に対するBQ条件とよい基本多面体を持つという条件の同値性に関する秋吉・山下予想の解決に向けたものである.よい基本多面体を持つという性質に対しては,穴あきトーラス群のフォード基本多面体に関するJorgensen理論と同様の幾何学的連続性の議論が効果的であると思われる.今年度の研究で得られたよい基本多面体に関する精密な考察をもとに,幾何学的連続性の議論を展開し,まずは指標多様体のBQ条件を満たす部分集合の特定の連結成分に対して予想が正しいことを証明する.他の連結成分に対する考察のためには,指標の増大度を幾何的な言葉に翻訳する必要が出てくるが,ここでも実指標に対して成功した曲線複体への自然な「流れ」の導入を一般化したい. 2つめは,実指標に対して構成したよい基本多面体と,Moroianu-Schlenkerにより示されたコンパクトな凸核を持つ錐双曲構造の局所変形理論との関係を解明するものである.その第一歩として,今年度の研究で得られた実指標に対する初等幾何的パラメータづけ(錐角の変化に対して共通の定義域を持つ)により記述される錐特異点付きトーラスのタイヒミュラー空間とよい基本多面体の変形との関係を詳しく調べる必要がある.特に,錐角を2πへと増大させる極限には穴のないユークリッド・トーラスが現れるが,この変形における等角構造の変形を調べる.Moroianu-Schlenkerによる局所変形理論においては,無限遠境界に現れる等角構造が局所パラメータとして用いられるが,実指標において対応を調べることで,一般の局所変形理論へと応用できることが期待される.
|
次年度の研究費の使用計画 |
該当なし
|