研究概要 |
双曲力学系(写像・微分方程式)の理解は Smale ならびにその周辺の研究者を中心におこなわれた1960年前後からの研究 によって記号力学系などを通じて, ある程度整備されている. 一方, 非双曲力学系の理解はあまり進んでおらず, 力学系分野においてその理解は大きな問題として認識されている. カオスを示す力学系(写像・微分方程式)には一般に無限個の周期軌道が埋め込まれていることが知られており、カオスが現れる様々な分野ではカオスと不安定周期軌道の対応関係が明らかになることが期待されている. 本研究課題では, よく調べられている離散時間力学系, 連続時間力学系であるエノン写像, ローレンツ系などに関して, パラメタを変えながら安定多様体, 不安定多様体の構造変化を周期軌道を用いて調べた. そして, それらの力学系に関し, パラメタ変化に伴う非双曲構造, 特に安定多様体と不安定多様体の接構造の発生は, サドルノード分岐のノード周期軌道が周期倍分岐するとともに生まれる不安定周期軌道の系列の極限で捉えられることを明らかにした. 特に, 周期軌道系列の安定多様体と不安定多様体がなす角度の減衰レートに一定の法則があることを見出した. 非双曲構造(多様体の接構造)がこの様に捉えられることの具体的な数値計算例を与えたという意味で重要な結果であると考えている. また, すでに数学的に双曲的, (特異) 双曲的であることが知られているパラメタからあるパラメタを動かしていった際に系がはじめて接構造をもつパラメタ値はカオス的な軌道に対するリアプノフベクトル計算によって推定できるが, そのパラメタ値は, 系に埋め込まれた不安定周期軌道を用いることによってより精密に得られることを確認した.
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