安定多様体と不安定多様体が接構造をもつことによって双曲性を破綻させている非双曲力学系に対する不安定周期軌道展開をおこなった。1990年頃よりカオス力学系に埋め込まれた不安定周期軌道を用いて、系の物理的な不変測度などを特徴づける不安定周期軌道展開の試みがなされてきた。しかし、それらはいずれも双曲的な構造を意識した展開公式であったため、非双曲力学系への適用に限界があることが知られていた。実際、安定多様体と不安定多様体が接構造をもつエノン写像で従来の展開公式を適用すると、双曲的な場合に比べて収束の速度が遅くなることが確認されている。従来の不安定周期軌道展開においては、各周期軌道の周期と不安定性のみが用いられてきた。一方、接構造をもつ非双曲力学系においては、安定多様体と不安定多様体がなす角度が小さい不安定周期軌道が接構造に集積していることを研究代表者らは平成24年度までに見出していた。すなわち、多様体の角度が狭い領域には不安定周期軌道が多く存在するため、双曲性の弱い不安定周期軌道の貢献度は相対的に小さくなると予想した。そこで、研究代表者らは、接構造をもつエノン写像を例に、埋め込まれた不安定周期軌道の安定多様体と不安定多様体のなす角度を計算して各不安定周期軌道の双曲性の程度を捉え、双曲性の程度が低い不安定周期軌道の貢献を相対的に低くすることによって不安定周期軌道展開の収束速度を改良できることを見出した。
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