研究課題/領域番号 |
23740074
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
木下 武彦 京都大学, 学際融合教育研究推進センター, 講師 (30546429)
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キーワード | 積分方程式 / 微分方程式 / 有限要素法 / 精度保証付き数値計算 |
研究概要 |
1.非線形常微分方程式系の初期値問題の解に対する精度保証付き数値計算法の構築に取り組んだ.常微分方程式系の解に対する既存の精度保証付き数値計算法は Taylor 展開法や Picard の逐次近似法に基づいており,離散変数法,例えば Runge-Kutta 法と比べて多くのメモリが必要となる.これに対して提案手法では離散変数法で求めた近似解に対する誤差限界を求める事が出来るのが特徴である.離散変数法は常微分方程式の数値計算で最も良く使われる方法であり,これまでに数多くのアルゴリズムが提案されてきた.本精度保証付き数値計算法はこれらのアルゴリズムをそのまま利用出来る点が特徴である. 2.本研究で対象とする特異性を持つ積分方程式はそれと同値な特異性を持つ常微分方程式が存在する.この常微分方程式は2階楕円型境界値問題となる.この方程式の解の存在を検証するためにはまず線形化逆作用素の存在を検証するのが有利となる.この手法は従来から知られている方法だが,従来手法と同程度の効率的で精度の良い評価方法を提案した.これにより,従来より誤差限界が小さな解の検証が出来ると期待される. 3.積和演算命令を用いた並列化区間演算ライブラリの開発に取り組んだ.微分方程式や積分方程式の解を検証する際に区間演算と呼ばれる計算手法が必須となるが,区間演算の計算量は近似計算の数倍になるため,実用的な区間演算ライブラリにするためには計算機環境毎に最適化が必要となる.本区間演算ライブラリでは区間密行列に対する線形代数計算を行う事を目標としており,キャッシュメモリを有効に使えるブロックアルゴリズムを採用している.計算精度については倍倍精度演算を用いた高速な擬似四倍精度区間演算の他,藤原宏志先生らと共同で多倍長区間演算にも対応する予定である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究では非線形積分方程式の解の存在を検証する理論を構築する予定であった.しかし,同様の研究方針を行っている研究者が居たため,これと同値な特異性を持つ微分方程式に対する解の存在を検証する手法を考察している.それに向けて,非線形常微分方程式系の初期値問題に対する解の検証手法を提案した.また,従来よりも精度の良い楕円型逆作用素の評価手法を考案し,論文として出版された. 並列化区間演算ライブラリについては,C 言語からアセンブリー命令を呼び出す事で丸め方向を変更しない区間演算を実装している.しかし,データ構造が並列計算に向いていなかったため,高い性能を出す事が出来なかった.
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究は他の研究者との競合を避けるため,特異性を持つ微分方程式に対する解の検証手法を研究する.今年度得られた非線形常微分方程式系の初期値問題の解を検証する手法を元に,狙い撃ち法による境界値問題の解の検証方法を検討する. これと平行して並列計算に向いたデータ構造で並列化区間演算ライブラリの開発を推める.また,C 言語よりも簡単に利用出来るように Python によるインターフェイスも作成する.
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次年度の研究費の使用計画 |
今年度はノートパソコンやソフトウェアの購入を予定していたが,インテルから発売された新しい世代の CPU を搭載したモバイルノートがなかったため購入を見送った.現在作成中の区間演算ライブラリはこの新世代 CPU の命令を使用しているため,これを搭載したノートパソコンが必須となる. 本研究の成果は9月の国際会議で発表する予定なので,この時期までにノートパソコンを購入する予定である. それ以外の研究費の使用計画は当初の計画通りとする.具体的な用途は,スーパーコンピュータ利用料,ソフトウェアの購入,国内外旅費,外国語論文の校閲費である.
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