研究概要 |
近年, 360°方向のデータから構成される2 次元横断面像を積層し, 数十μm 以下の分解能を持つマイクロCTの直接3 次元計測による骨粗鬆症診断が実用化されてきた. 骨構造は複雑なスポンジ状を成しており,その微細に張り巡らされた骨梁構造の連結性の減少は, 骨量減少とは無関係に骨強度を弱めてしまうために,連結性は骨粗鬆症の有効な判定指標になりうる. 本研究では, ウサギ腱移植モデル, 及びラット卵巣摘出モデルを対象として, それらのマイクロCT データから骨梁構造の連結性(位相不変量)を定量評価する数学ソフトウエアを開発した. ホモロジー計算ライブラリに加えて, 画像処理 (コンピュータビジョン) ライブラリ, 及びマルチコアを有する計算機で効率的な計算を実行するために並列化ライブラリを用い, C++言語のプログラムとして実装した. また 2D 横断画像を積層し, 3 D 像を描画表示する機能も加えた. これを用いて, 特に移植腱周囲に生じる骨吸収による骨孔拡大について, 骨粗鬆症製剤投与による骨吸収抑制効果を検証した. コントロール群と薬剤投与群の位相不変量の計算結果について, 2 標本の平均値について検定を実行し, 有為な差を統計学的に確認することができた. 無限次元の空間構造データから, 本質的な情報として抽出した少数次元指標(位相不変量) による定量評価により, 骨代謝回転における形成促進と吸収抑制による治療薬の効果の特徴付けに役立つことが期待される.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
マイクロCT データからホモロジー計算ライブラリを用いてベッチ数を評価するソフトウェアを作成した. 画像処理, 及び並列化ライブラリを利用して, マルチコアを有する計算機における効率的な計算を実現した. また断層 2D 画像を積層して 3D像 を表示する機能も加えた. これを用いて, ラット閉経後骨粗鬆症モデル, 及びウサギ腱移植骨粗鬆症モデルのマイクロ CT データに適用した. 後者では骨粗鬆症製剤投与による薬効検証した.「臨床骨梁トポロジーセミナー」を企画実行し, 研究協力者らとの研究打合せを実施した. また高分子混合系の 3D 自己組織化構造について, 両親媒性分子の分シミュレーションデータ, 及びダブル FDDD 構造の数値シミュレーションと構造解析を検討した.
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今後の研究の推進方策 |
開発したソフトウェアによって得られた結果について, 骨粗鬆症の病態診断, 及び薬効検証の指標として医学統計学的な見地から評価する. 具体的には, 異なる 2 種の標本による 2 母集団の比較を扱い, SPSS ソフトウェアを用いて統計解析を行う. また保持ホモロジー量を導入し, その画像診断の有効性について検討し, そのソフトウェアへの実装を行う. また骨破壊と骨吸収の生理学的知見から, 骨のリモデリングの数理モデルの構築, 及びその数理解析を検討する.
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次年度の研究費の使用計画 |
初年度は高性能計算ワークステーションの購入に研究費の多くを割いた. 次年度以降は成果発表, 及び定期的な打合せの為の旅費への使用を計画している. また計算機性能の進歩に合わせ, 必要に応じてワークステーション, 及び計算機環境の強化, 結果の解析ソフトウェアの導入を検討する.
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