最終年度に実施した研究の成果:昨年度に引き続き,地震波のモデル方程式である半空間における弾性波動方程式の定常解の特徴づけに関する研究を行った。今年度では,半空間における弾性波動方程式のグリーン関数の漸近展開と誤差項の詳細な評価を与えた。 研究期間全体を通じて実施した研究の成果:本研究により,散乱理論における4つの基本問題,1)フーリエ変換を構成すること,2)解集合をフーリエ変換で記述すること,3)レゾルベントの漸近展開を求めること,4)一般化された固有関数の漸近展開を求めること,が半空間定数係数弾性波動方程式に対して解決した。1)については先行研究があったため,本研究の成果は2)から4)の部分である。特に,3)と4)について,すべての方向に対して漸近展開式を得たことは大きな成果である。 意義:本研究で得られた結果は半空間弾性波動方程式に対する散乱理論の基礎的結果である。この結果を礎に,摂動の入った弾性波動方程式の散乱理論の研究,さらには地球の内部構造を地震波から同定する逆問題の研究がさらに発展すると期待される。 重要性:現実の波動現象は,等方的に伝播することは少なく,方向によって異なる伝播をする現象が多い。本研究で用いた解析手法は,異方性をもつ波動現象を記述する偏微分方程式にも十分適用可能であることが予想される。したがって,この研究結果は応用範囲が広く,発展性がある。複雑な波の伝播の様子を数式で詳細に記述できることは,数値シミュレーションを可能にし,さらには現実の問題への応用も期待できる。
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