研究課題/領域番号 |
23740110
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研究機関 | 兵庫県立大学 |
研究代表者 |
永安 聖 兵庫県立大学, 物質理学研究科, 講師 (90455684)
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キーワード | 安定性評価 / 偏微分方程式 / 逆問題 |
研究概要 |
この研究目的の一つは,あるパラメータを含む偏微分方程式が与えられたとき,そのパラメータが偏微分方程式の解にどのような影響を及ぼすかについて調べることである.昨年度は,振動数を含む音響方程式に対する係数決定逆問題の安定性が,振動数を大きくすることによってどうなるかについて調べたが,今年度も引き続きこの問題を考え,昨年度得られた結果を改良した(G. Uhlmann氏,王振男氏との共同研究).又,今年度はシュレディンガー方程式に対する係数決定逆問題の安定性についても調べた(V. Isakov氏,G. Uhlmann氏,王振男氏との共同研究).以下では主に後者のシュレディンガー方程式に対する結果について説明する. 振動数を含む方程式に対する逆問題は,振動数を大きくしたときに安定性が良くなることが数値的に確認されている(例えばColton-Haddar-Piana (2003)).そこでこの現象を数学的に示すことを昨年度より試みている.そして今年度,シュレディンガー方程式[Δ+k2+q(x)]u(x)=0の係数決定逆問題に対し,ある安定性評価を示すことができた.得られた安定性評価は,振動数を大きくしたときに安定性が良くなることを示唆しているものである.そしてこの安定性評価は,リプシッツ減衰の部分とlog減衰の部分が現れるという点に於いては音響方程式の場合と同様である.しかしながらここで強調すべきことはリプシッツ減衰の部分の係数がkの多項式(4乗)のオーダーであるという点である.音響方程式についての結果に於いて,現状ではリプシッツ減衰の係数が指数関数のオーダーであることと比べると,このシュレディンガー方程式の逆問題に対する安定性評価は非常に良いものであるといえる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
この研究の目的の一つは,あるパラメータを含むような偏微分方程式が与えられたとき,そのパラメータが偏微分方程式の解にどのように影響するのかを調べることである.今年度は,昨年度に引き続き偏微分方程式の逆問題の安定性評価について調べた.そして,シュレディンガー方程式に対する逆問題の場合には,音響方程式のときよりも良い評価が得られた.尚,いずれにしてもそれらの安定性のoptimalityについてはまだ得られていないので,それは今後の課題である. 一方,区分的に滑らかな係数を持つ偏微分方程式の解の解析についてはまだ計算途中ではあるが,非常に具体的な場合について考えれば下からの評価に関する何らかの情報が得られるのではと考えている.
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今後の研究の推進方策 |
今年度扱った係数決定逆問題の安定性評価に関して,残っている大きな問題の一つはoptimalityである.これについては具体例をできる限り精密に計算して調べざるを得ないであろうと思われる.シュレディンガー方程式の場合に関しては,今年度得られた安定性評価がoptimalなものにかなり近いのではと考えている.又,今年度の研究では境界観測をコーシーデータで定式化することにより,作用素の核が自明であるという仮定を外すことに成功したが,今後はCheng-Nakamura (2001)のアイデアなども使って有限回の境界観測による係数決定の逆問題についても考えたい. 一方,区分的に滑らかな係数を持つ偏微分方程式の解の解析については,まずは非常に具体的な場合(例えば層状の場合)について考えるのがいいのではと思われる.
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次年度の研究費の使用計画 |
この研究では,共同研究者との議論が重要な役割を果たす.特に今年度と同様,王振男氏(国立台湾大学教授,台湾)や,中村玄氏(Inha大学教授,韓国)との議論は研究を大きく進展させると思われる.しかしながら,いずれも海外であり飛行機を使っての移動となるため,次年度も交通費や旅費がかなり必要になると思われる.又,研究の際には偏微分方程式論に関する文献も必要になると思われる.
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