半導体工学・プラズマ物理に現れるモデル方程式に対する初期値境界値問題の解の挙動を解析することが本研究の目的である.これまで研究代表者は半導体中の電子流を記述するモデル方程式の時間大域可解性などの問題を一次元領域上で解決してきたが,半導体デバイスの構造を考慮するならば,それらのモデル方程式は多次元有界領域上で解析すべきある.一般に半導体デバイスの形状は多面体である.さらに,デバイスは一部分のみが電極に接触し,その他の部分では電流の流入流出は起こらない.数学研究でもこのようなデバイスの特殊な構造を反映した境界条件を採用するべきであろう.工学的な数値実験では,デバイスが電極に接する境界に,ドーピング関数および半導体にかけられる電圧から決まるディリクレ境界条件が課され,電極に接しない境界に,電子が半導体の外部に流れ出ないことを意味するノイマン境界条件(スリップ境界条件)が課される.こうした境界条件を採用した結果としては,Gajewski 教授が Drift-diffusion model(DD モデル)に対して,電流が零となる定常解の安定性を示しているが,それ以来注目すべき成果は報告されていなかった. 本研究では,ディリクレ・ノイマン混合型境界条件を課した直方体領域において DD モデルを解析し,デバイスに直流電圧をかけた場合に、電流が零とは限らない定常解の漸近安定性を示した.また,半導体デバイスに交流電圧をかけた場合には、時間周期解が存在して,それは時間的に漸近安定であることも証明した.
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