細胞の増殖過程や細胞内のシグナルのような局所的プロセス(拡散しない)と細胞の周りを拡散する化学物質との相互作用から成るパターン形成を記述する反応拡散系(reaction-diffusion-ODE system)について、研究期間全体を通じて(1)非定数定常解の存在と安定性、(2)解の時間大域的挙動、の理解に取り組んできた。考える方程式系は、拡散誘導不安定化に基づくものを扱う。その結果、reaction-diffusion-ODE systemのダイナミクスはパターン形成を記述する古典的な反応拡散系のそれとは大きく異なることを明らかにすることができた。(1)について昨年度までに得た結果として、reaction-diffusion-ODE system では、定数定常解において拡散誘導不安定化を引き起こすメカニズムが、すべての非定数定常解をも不安定化させることが分かった。(2)については、昨年度にいくつかの例について、拡散係数を無限大とした極限方程式系の解の爆発現象について解析を行った。最終年度である今年度は、この結果を元々のreaction-diffusion-ODE system の場合に考察すること、そしてより一般の非線形項の場合に解の爆発現象が起こり得るかの考察を行った。その結果、拡散係数が十分大きい場合には、極限方程式の場合と同様に解の爆発を示すことができた。さらに、空間一様な解がすべての時刻で存在し一様に有界であっても、有限時間で爆発する解が存在し得ることが分かり、「拡散誘導爆発」の問題との関連が明らかとなった。これは、拡散が方程式系のダイナミクスに与える影響を理解する新たな研究の方向性も含む興味深い性質の発見である。 現在、2本の論文を投稿中、2本の論文を投稿準備中である。
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