研究概要 |
熱力学極限やGibbs測度、大偏差原理などの統計力学における手法、概念を駆使してエノン写像などのカオス的力学系の大域分岐の様子、すなわちパラメーターの変動に伴うダイナミクスの変化を詳しく調べている。このような研究の方向は、一様双曲系のようにマルコフ分割を許容する力学系についてはSinai, Ruelle, Bowen, Landordらによって1960年代から強力に押し進められ、美しい統一的な理論として結実した。しかし、エノン写像のようにマルコフ分割がない、あるいはあるかどうかわからないような場合には未だ一般論が存在せず、手探りの状況が続いている。本年度は本科研費を使用して米国ペンシルバニア州立大学に共同研究者のSamuel Senti氏(リオデジャネイロ連邦大学、ブラジル)を訪ね、エノン写像の最初の分岐パラメーターにおける自然な平衡状態の存在と一意性、及びその幾何的、統計的性質に関する共同研究を進めた。また、この成果を京都大学や北海道大学での研究集会で発表した。この一連の研究は二編の共著論文として既にほぼまとめられている。うち一つは既に投稿中であり、もう一つも間もなく投稿予定である。
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