平成25年度は主としてユークリッド平面上の2点に磁束の値が量子化されたアハラノフ・ボーム型磁場(δ磁場)を持つシュレディンガー作用素の散乱振幅、およびそれに関連するスペクトル・シフト関数の計算を行った。従来の方法は2点が十分に離れているという仮定の下で各点の周りでの極座標を用いてグリーン関数・散乱行列の主要部のみを取りだすものであったのに対し、この研究では2点を焦点とする楕円座標を用いることにより任意のエネルギーの散乱行列に対する厳密な表示を得たところが大きな進歩であった。さらに従来の方法は高エネルギーにしか使えないのに対し、今回得られた表示は特に低エネルギーの時に極めて速く収束するため、数値計算を援用することにより詳しい計算が可能になった。 研究期間全体を通じた成果は次の通りである。(1)「双曲平面上のアハラノフ・ボーム磁場に対するランダウ準位の存在・非存在の判定」(平成23年度)(2)「2次元周期的シュレディンガー作用素のスペクトル・ギャップの上界に対する評価」(平成23年度)(3)「2次元楕円領域上の2焦点に量子化されたアハラノフ・ボーム型磁場を持つシュレディンガー作用素に対する変数分離型固有関数の完全性」(平成24年度)(4)「2次元平面上の量子化されたアハラノフ・ボーム型磁場に対する散乱振幅の計算」(平成25年度) 上記(1)(2)は既知の結果の拡張・精密化であるのに対し、(3)(4)は旧来の方法と根本的に異なる手法による新しいアプローチであり、今後のさらなる拡張・発展が期待される。特に、「3次元ユークリッド空間内のリング内に閉じ込められたアハラノフ・ボーム型磁場に対する散乱振幅の計算」の問題は外村彰らの実験と極めて状況が類似しており、厳密解の表示・数値計算のいずれの面からも興味深い。今後も継続して研究を進める予定である。
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