研究課題/領域番号 |
23740125
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研究機関 | 東京農工大学 |
研究代表者 |
村田 実貴生 東京農工大学, 工学(系)研究科(研究院), 講師 (60447365)
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キーワード | 関数方程式 / 解析学 |
研究概要 |
自身が開発した微分方程式を元にセル・オートマトンを構成する方法を用いて研究を行った。その方法は1階の微分方程式や反応拡散方程式に適用でき、多成分や多変数の方程式への適用も可能である。2成分の反応拡散系である化学反応のモデルとして知られるグレイ・スコットモデルについてこの手法を用いてセル・オートマトンモデルを構成して、自己複製パターンやパルスの分裂や対消滅の生じるようなシミュレーション結果を得ることに成功したが、その結果とグレイ・スコットモデルの解との対応を見るために、セル・オートマトン化の過程で生じるこれらのモデルの間に存在する差分方程式モデルについて数値解析を行った。その結果、差分方程式モデルでもグレイ・スコットモデルと同じように、方程式のパラメータや初期条件を変化させることにより自己複製パターンやパルスの分裂や対消滅の生じるようなシミュレーション結果を得ることに成功した。このことは開発したセル・オートマトン化を行う方法が、元の微分方程式の性質を保存したものであることを示している。したがって、他の方程式についてもこの手法で元の微分方程式の性質を保存したセル・オートマトンが構成できると期待される。 微分方程式、差分方程式、超離散方程式の3種類の関数方程式に対応関係をつけて、それらを総合的に解析するための手法を確立することが研究の目的である。今年度の実績は、グレイ・スコットモデルという具体例に対して、対応する3種類の関数方程式を構成し、数値シミュレーションにより同様の定性的な性質を有していることを確認したことになる。 目的とする手法の確立のためには、現状では具体例における成功例を多く獲得することが重要と考える。したがって、グレイ・スコットモデルにおける今年度の実績は今後の進展に向けても重要な結果である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
1階の微分方程式や反応拡散方程式に対して、それと同様の性質をもつと考えられる超離散方程式やセル・オートマトンを構成する系統的な手法を確立した。特に反応拡散系の代表的な方程式であるアレン・カーン方程式とグレイ・スコットモデルに対してセル・オートマトンモデルと差分方程式モデルで同様のシミュレーション結果が得られることを確認した。 微分方程式、超離散方程式、その間に位置する差分方程式という3種類の関数方程式を総合的に解析する手法を確立することが研究の目的であるので、そのための有効な手段を開発したといえる。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度までに得られた結果を基にして、他の重要な微分方程式、例えばオレゴネータと呼ばれる化学反応モデルやフィッツヒュー・南雲方程式と呼ばれる神経細胞の活動電位モデルを元に新しい離散方程式と超離散方程式、セル・オートマトンを構成する。それらの数値計算を実行することにより元の微分方程式の性質を保持しているかを検証する。 多数の例に対してこのような方針により研究することにより、この手法の適用可能性に関する一般論の構築を行いたい。 また、逆超離散化と呼ばれる超離散方程式やセル・オートマトンから差分方程式を構成する手法が存在するが、その手法を発展させてセル・オートマトンから微分方程式を構成する手法を開発したい。 これらの研究により微分方程式とセル・オートマトンの相互の関係をより明らかにしたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
年度当初には予定していなかった所属機関の変更が生じたために、今年度中に予定していた一部の出張や物品購入ができなくなった。したがって、この研究費も含めて次年度の使用計画をたてる。 これまでの研究結果の発表を各地で行うため、他の研究者との研究討論を各地で行うため、研究の推進に必要な分野の研究集会に参加するために旅費が必要になる。出張の行先はセル・オートマトンの研究者、数理モデルの研究者、反応拡散系の研究者、また数値計算の研究者と多岐に渡り、さらに、複数の共同研究者の出張も計画しているため、それに応じた額の旅費が必要である。 今後の研究のためには数値計算が必要である。とくに差分方程式の解は厳密に求められるものでないので、数値シミュレーションの結果を蓄積する必要がある。したがってその目的の遂行のために計算機環境をソフトウェア・ハードウェアともに増強する必要があり、そのための物品費が必要となる。 また、セル・オートマトン、数理モデル、反応拡散系、数値計算の各分野の知識を得る必要があるので、それらの専門図書を購入するための物品費が必要となる。 専門家による知識の提供は研究対象に対して新しい視点を与え研究の更なる発展に欠かせないものであるので、このための費用として謝金が必要である。
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