研究課題/領域番号 |
23740136
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研究機関 | 東京工業高等専門学校 |
研究代表者 |
波止元 仁 東京工業高等専門学校, その他部局等, 講師 (70547801)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 双曲積構造 / SRB測度 / 相関関数の減衰 / 中心極限定理(CLT) / 大偏差原理(LDP) |
研究概要 |
目的「中心不安定方向をもつ部分双曲的微分同相写像(部分双曲系)に対して,ヤンが導入した双曲積構造に類似した或る種の弱い双曲積構造(弱双曲積構造)と,大部分の初期点から出発する軌道の統計的性質を調べる上で都合のよい不変確率測度であるSinai-Ruelle-Bowen(SRB)測度に関する相関関数の減衰率・中心極限定理(CLT)・大偏差原理(LDP)の関連付けを行う」に関して,次の二つのことを調べた.一つ目は,微分同相写像が弱双曲積構造をもつ場合に,弱双曲積構造とSRB測度に関するLDPとの関連付けを行うこと,二つ目は部分双曲系が弱双曲構造をもつことを示すことである. 一つ目のものに対しては,弱双曲積構造にヘルダー連続関数がコホモロガスとなるような或る付加条件の下で,弱双曲積構造とSRB測度に関して多項式的な上限評価をもつLDPとの関連付けを証明した.二つ目のものに関連して,部分双曲系の一種である,一様縮小方向とマヌビレ・ポモ型の一次元非一様拡大方向をもつ微分同相写像(オールモースト・アノソフ系)はこの種の弱双曲積構造をもつことを示し,オールモースト・アノソフ系に対して,コホモロガス型の付加条件をもつ弱双曲積構造とSRB測度に関する多項式的な上限評価をもつLDPとの関連付けを行った.この成果は論文「Polynomial upper bounds on large and moderate deviations for diffeomorphisms with weak hyperbolic product structure」として纏め投稿中である(アブストラクトとして東京工業高等専門学校研究報告書に発表した).
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
目的である「部分双曲系に対する弱双曲積構造とSRB測度に関する相関関数の減衰率・CLT・LDPの関連付けを行う」に対して,微分同相写像の弱双曲積構造とSRB測度に関するLDPの関連付けを行うことができた.申請時の「研究の目的」に沿い,弱双曲積構造における局所安定多様体上の点を同一視することにより定義される商力学系に対する絶対連続な不変確率測度に関する相関関数の多項式的な上限評価を用いて,LDPの上限評価も多項式的であることを示した.これにより,これまでの成果から,微分同相写像に対する弱双曲積構造とSRB測度に関する相関関数の減衰率・CLT・LDPの関連付けが行われたことになる. 当初の目的を達成するために残ることは,部分双曲系が弱双曲積構造をもつことを示すことである.そのために,オールモースト・アノソフ系が弱双曲積構造をもつことの証明手法や,アルべス・ルザット・ピンヘイロが縮小方向をもたない非可逆な或る非一様双曲的力学系に対して双曲積構造をもつことの証明手法を利用・拡張し取り組み中である。
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今後の研究の推進方策 |
中心不安定方向の上で面積(体積)拡大をする部分双曲系を扱い,弱双曲積構造をもつことを示したい.また部分双曲系のもつ仮定である一様縮小方向の縮小率を弱めて,中心不安定方向に比較して「相対的な縮小方向」と中心不安定方向をもつ力学系に対して弱双曲積構造を示したい.このような部分双曲系はルベーグ測度に対して至るところ中心不安定方向に対して正のリヤプノフ指数をもつ.この性質があればアルべスが導入した双曲時間が存在する.ここで双曲時間とは,プリスの補題により特徴付けられる,部分双曲系の中心不安定方向の拡大率が保証される或る前方反復回数のことである.アルべス・ルザット・ピンヘイロは,縮小方向をもたない非可逆な或る非一様双曲的力学系に対して,双曲時間を用いることにより双曲積構造(この場合は安定方向が無い)をもつことを示した.この証明手法を中心不安定方向をもつ部分双曲系に対して利用し弱双曲積構造をもつことを示したい. 部分双曲系は縮小方向が存在するため、そのままでは利用することができない.問題点は,縮小方向から定まる安定多様体に沿って写す写像(ポアンカレ写像)のある種の連続性にある.ポアンカレ写像が,双曲時間を用いて定義される或る距離に関するリプシツ連続性をもつことを示したい.これが示されれば,安定多様体上の点を同一視することにより定義される商力学系(中心不安定方向の上に制限した力学系)を考えることができる.これにより中心不安定方向から導かれる局所中心不安定多様体上でアルべス・ルザット・ピンヘイロが行った証明法が適用したい.
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次年度の研究費の使用計画 |
本研究の進捗状況を,東工大の鷲見直哉先生,宇都宮大の酒井一博先生,徳島大の守安一峰先生の下で発表を行い助言を頂きに参りたい.成果がまとめ上がれば力学系研究集会や日本数学会等でのシンポジウムで発表を行い,多くの先生方のご意見を賜りたい.そのために必要な経費は宇都宮大,徳島大への旅費(交通費・滞在費)である.旅費は100(千円)が必要であり,内訳は次のようになる.・宇都宮大への旅費:2泊3日分の滞在費(5(千円)×2泊)+交通費(片道5千円×2):20(千円)・徳島大への旅費:2泊3日分の滞在費(5(千円))×2泊)+交通費(片道27千円×2):64(千円)・雑費(セミナーで用いるコピー代等):16(千円)
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