弱双曲積構造をもつ離散時間の力学系に対して,弱双曲積構造がもつ回帰分岐の中心不安定方向のルベーグ測度に対する減少率が多項式的なときに,Sinai-Ruell-Bowen(SRB)測度に対する多項式的な上限評価をもつ大偏差原理(LDP)を求めた.この結果の適用例は,一様縮小方向と中心不安定方向にマヌビレ・ポモ写像型の挙動をするオールモースト・アノソフ系である. Melbourne-Nicolは双曲積構造をもつ力学系に対してLDPを求めているが,本研究での成果は,この結果の弱双曲積構造を持つ力学系に対応するものである.双曲積構造をもつ力学系の漸近挙動は概していうと指数的なものとして特徴づけられるが,本研究で扱ってきたオールモースト・アノソフ系の漸近挙動は多項式的なものとして特徴づけられる.弱双曲積構造をもつ力学系に対して構築したスキームは,従来の双曲積構造をもつ力学系に対しても適用可能となっており,より広い力学系に対して相関関数の減衰率,CLT,LDPを求めることができるが,主に時間相関関数の減衰率が多項式的な漸近挙動をする力学系に対する適用性をもつものである.
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