研究概要 |
Allen-Cahn方程式を含む双安定反応拡散方程式は相転移現象や集団遺伝学, 神経伝達のモデルなど具体的な現象を記述する方程式としてだけでなく, 複雑なパターン形成のメカニズムを説明するための単純なモデル方程式として現在まで様々な研究がなされてきた. 特にパターン形成の観点から, 解の形状に関する研究が中心に行われている. その中で, 進行波と呼ばれる空間内を形を変えずに一定の方向へ進む波の存在とその安定性, また空間内の狭い範囲で急激に値が変化する遷移層という形状をもつ解のダイナミクスの解析や定常解の構成は様々な観点から研究が行われてきた. これらはいずれも, パターンが空間内をどう伝播するかという問題に関する研究である. 私は現在まで双安定反応拡散方程式を1次元の数直線上で考え, 方程式に空間非斉次性を含み, その空間非斉次性がパターンの伝播にどのような影響を与えるかという問題について研究を行ってきた. 本年度前半では, 空間非斉性が数直線上のある区間で退化している場合, その区間上に遷移層をもつ解のダイナミクスに関してすでに得られた研究成果を米国ユタ州で行われた国際会議「SIAM Conference on Dynamical Systems」にて発表すると同時に情報収集を行った. これまで双安定反応拡散方程式のパターンの伝播に関する研究は数直線全体において定義される進行波(速度が0の場合は定在波と呼ばれる)を近似解として用いるものであったのに対し, 近年外来生物種の侵入のモデルを自由境界問題として定式化しその解の漸近挙動を調べる研究が活発化しつつあり, 進行波を基にした現在までの研究と密接に関連を保ちながら異なる側面を見せている. 本年度後半においてはこの自由境界問題とそれに関連する文献調査を行い, 空間非斉次性を含む場合への拡張可能性について模索を行った.
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