研究課題/領域番号 |
23740139
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
村上 尚史 北海道大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (80450188)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 光赤外線天文学 / 応用光学・量子光工学 / 惑星探査 |
研究概要 |
本研究課題では、すばる望遠鏡コロナグラフ装置「SCExAO (Subaru Coronagraphic Extreme Adaptive Optics)」に、申請者が提案した8分割位相マスク「8OPM (Eight Octant Phase Mask)」法を搭載することを目的としている。そのための主要なコンポーネントは、(1)副鏡の影をもつ望遠鏡瞳像を円形開口像に変換するための特殊補正レンズと、(2)Hバンド(1.6ミクロン波長帯)での観測のための近赤外用8OPMである。 H23年度は、上述の2つのコンポーネントの設計を行った。特に、特殊補正レンズ(MPIAA, Modified Phase-Induced Amplitude Apodization)については、申請時に提案していたものよりもさらに高い性能のレンズの設計に成功した。従来の設計では、望遠鏡瞳像を円形開口像に変換するため、MPIAAレンズの後段にさらに特殊フィルタ(アポダイザ)が必要であった。新たに設計したMPIAAレンズはアポダイザを必要としないため、光学系を簡略化することができるだけでなく、システムスループットが格段に向上する。また、近赤外用8OPMの設計も完了し、H24年度のなるべく早い段階の購入を計画している。 さらに、SCExAO/8OPMでの実観測に向けて、大気揺らぎによる天体光波面の乱れ(特に、空間的に変動が緩やかな「低次」収差成分)を推定するため、コロナグラフ用低次波面センサの開発を行なった。H23年度は、低次収差成分の中でもっともコロナグラフ性能に影響を与えると考えられる、Tip-Tilt(傾き)成分を推定するためのアルゴリズム開発を行なった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初、MPIAAレンズと近赤外用8OPMを、H23年度に製作することを計画していた。しかしながら、より高い性能が期待できる新たなレンズを検討することとしたため、その設計に数ヶ月の時間を要した。そのため、製作時期が当初の計画よりも遅れている状況である。 しかしながら上述の通り、当初の計画よりも高い性能を実現できるMPIAAレンズの設計に成功したため、観測システムの簡略化および高効率化が期待できる。また、レンズ製作の実現性についての検討および見積もりは既に完了しているため、H24年度のなるべく早い段階で購入できる見通しである。さらに、MPIAAレンズの仕様が固まるまで製作を延期していた近赤外用8OPMも、MPIAAレンズと同時期に製作する見通しとなっている。これらのコンポーネントの製作が完了した後、実験室での動作確認を実施予定である。そのための準備も既に行なっているため、製作後すぐに室内評価を行なうことができる環境にある。従ってMPIAAレンズ設計の遅れは、本研究課題を推進する上で問題ない範囲である。 コロナグラフ用低次波面センサの開発については、概ね計画通りに進行している。H23年度は、低次収差成分のうち、Tip-Tilt誤差を推定するためのアルゴリズムの開発を行なった(上述)。実観測における目標として、Tip-Tilt誤差を望遠鏡解像度λ/D(λは観測波長、Dは望遠鏡口径)の0.001倍の精度で測定する必要がある。計算機シミュレーションの結果、目標値に迫る0.002λ/Dの精度で誤差成分を推定できることを実証した。
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今後の研究の推進方策 |
MPIAAレンズの製作後は、北大の実験室において性能評価を行なう。まずは、副鏡の影をもつ望遠鏡瞳像が円形開口像に変換されることを確認する。すばる望遠鏡瞳は、副鏡の影(円形)と、スパイダと呼ばれる副鏡支持機構の影(十字)をもつ。スパイダの影については、SCExAOプロジェクトにより補正光学系(SRP, Spider Removal Plate)の開発に成功している。そこで、MPIAAレンズ系に入射する光波は、副鏡の影のみをもつ望遠鏡瞳とする。この望遠鏡瞳をシミュレートするためのフィルタは、既に製作を完了しており、MPIAAレンズの製作後すぐに動作確認を行なうことができる。MPIAAレンズは近赤外波長域に最適化されているが、可視域でも透明なフッ化カルシウムを使用するため、動作確認は可視域で行なう。 次に、8OPM法と組み合わせた動作確認を行なう。本研究課題で開発する近赤外用8OPMは可視域では使用できないため、手持ちの可視域用8OPMを用いて実施する計画である。 コロナグラフ用低次波面センサの開発については、H23年度の状況を受け、目標値である0.001λ/Dの精度を達成するための方策を検討する。また、Tip-Tilt誤差以外の低次収差成分(焦点ずれ、非点収差等)の推定も行なうため、開発中のアルゴリズムの更なる改良を目指す。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度のなるべく早い段階で、MPIAA補正レンズと近赤外用8OPMを購入する。当初、これらのコンポーネントはH23年度の購入を検討していたが、新たな設計を行ったため次年度へとずれ込んだ。しかしながら上述のように、本研究課題を推進する上で問題のない範囲の遅れである。MPIAA補正レンズと近赤外用8OPMを購入後、それらのコンポーネントの動作確認を行なう。そのための実験器具(レンズ、ミラー、偏光素子等の光学部品)を購入する。 また、アムステルダム(オランダ)で行なわれる国際会議(SPIE -Astronomical Telescopes and Instrumentation)や大分大学で行なわれる日本天文学会に参加し、すばる望遠鏡SCExAOプロジェクトの研究グループなどと、研究の進捗や今後の開発の段取りについて討論する。 次年度の後期は、前期に実施した動作確認実験で洗い出した問題点を踏まえ、追加実験を実施するための実験器具(光学部品等)を購入する。また、上で述べた基本的な動作確認の他、MPIAA補正レンズによる惑星像の劣化(惑星光は軸外から入射するため、MPIAAによりその像が歪む)の評価を行なう。このような像劣化は、8OPMの後段に、MPIAAレンズを裏返した逆補正系を置くことにより改善することができる。本実験は、将来の逆補正系開発に向けた見通しを得ることを目的とする。 次年度の開発が順調に進んだ場合、年度終盤に本研究課題の成果を学術誌に発表する。
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