研究課題
観測データ解析を進めるとともに、理論研究においては輻射輸送計算手法の開発を進めた。観測データ解析は現在も進行中である。今年度はすばる望遠鏡観測が3夜採択されたが、天候が悪く新たな観測データは得られなかった。輻射輸送計算において非常に大きな進展が見られた。これまで簡単化していた物理過程を詳細に取り入れ、約100万の原子遷移をとりいれながら物質と輻射の相互作用をあつかい輻射輸送を多次元で任意の形状・速度場を持つ物質上で解く計算コードを開発した。これは、世界的に見てももっとも最高峰の輻射輸送シミュレーション手法であるといえる。これ以外にも、以下のような成果を上げた。(1)Ia型超新星の色に注目し、より高精度の距離測定手法を提案した(Maeda et al. 2011; Cartier et al. 2011)。(2)近年話題となっている非常に明るい超新星について、その明るさの源を観測的に特定する手法を提案した(Moriya & Maeda 投稿中)。(3)超新星におけるダスト形成の理論研究および観測的制限をつけた(Fallest et al. 2011; Nozawa et al. 2011; Tanaka et al. 2012)。(4)Ia型超新星の外層の組成に炭素が含まれることを発見し、爆発機構への新たな制限をつけた(Folatelli et al. 2012)。(5)それまで重い星の爆発の残骸と考えられていた超新星残骸のX線による組成特定を行い、これがIa型超新星を起源とすることを明らかにした(Yamaguchi et al. 2012)。(6)最新の多次元爆発モデルに基づき、爆発の際に生成される放射性元素からのガンマ線放射の理論予測を提出し、これが次世代X-ガンマ線望遠鏡Astro-Hで検出可能であることを示した(Maeda et al. 投稿中)。
1: 当初の計画以上に進展している
Ia型超新星の距離指標としての精度を高める方法を考案・提案することは本研究の大きな目標の一つであるが、超新星の色に着目しそのばらつきを補正することでより高精度の距離測定を行う可能性を提案した(Maeda et al. 2011; Cartier et al. 2011)。また、Ia型超新星外層部の組成を新たに導くことで爆発理論への新しい制限を得たが(Folatelli et al. 2012)、これはやはりその光度(したがって距離)の見積もりに応用できる可能性がある。このように、大きな目標のひとつであるIa型超新星宇宙論への応用手法をすでにいくつか提案できたことは初年度としては予想以上の成果である。今後は、これらの新しい観測的関係・知見をどのように爆発の物理過程に結び付け、さらに新しい方法を提案することが大きな目標となる。この点で、今年度に新しい多次元輻射輸送計算コードを開発・完成できたことは非常に重要である。この計算コードは超新星の光度曲線・スペクトル計算において世界最高峰のものであり、これをもって2012年度以降さまざまな理論予測を提出し、これまでに発見した観測的知見・今後増加する観測データの解釈を行うことができる。すでにいくつかの理論シミュレーションを開始している。また、さまざまな波長域での超新星の性質の包括的研究も本課題の目標の一つである。今年度には、放射性元素からのガンマ線放射理論予測(Maeda et al. 投稿中)、ダスト形成と観測可能性(Fallest et al. 2012; Nozawa et al. 2011; Tanaka et al. 2012)、超新星残骸X線観測による元素合成への制限(Yamaguchi et al. 2012)など、この目標にそった研究を実際に行いさまざまな成果が得られた。
引き続き観測および観測データ解析を行うとともに、新しく開発した多次元輻射計算コードを用いての理論モデルの提出を行う。観測研究においてはすでにすばる望遠鏡で2晩採択されており新たな観測データが得られると期待される。これまでの観測データ解析も順調に進んでおり、2012年度には結果をまとめられると考えられる。特に、特異なSN 2002cx-likeと呼ばれる超新星の周辺環境の解析を進めており、これはこの正体のわからない一連の超新星が重い星の爆発であるか、白色矮星の爆発であるかを突き止めるのに重要になると考えている。Ia型超新星の後期スペクトルについてもすばる望遠鏡で取得したデータの解析が進んでおり、今後マックスプランク研究所の共同研究者とともに取得したヨーロッパVLT望遠鏡のデータと合わせ爆発機構に制限をつけていく。あたらしい計算コードを用い、いくつかの理論モデル計算が進行中である。これも2012年度に初期成果がまとめられると期待される。Ia型超新星については引き続きマックスプランク研究所の爆発理論研究者らとの共同研究を進め、光度曲線・スペクトルモデルを提出していく。また、重い星を起源とする重力崩壊型超新星についても、多次元の爆発モデルに基づく輻射輸送計算が進行中である。これにより、爆発構造や視線方向を特定するための新たな手法を提案したい。同時に、Ia型超新星、重力崩壊型超新星の両方について観測と比較できるシステマティックな光度曲線・スペクトル計算を行うことを計画している。この過程で、インド、スウェーデン、ドイツ、チリの観測共同研究者との議論を通し、観測データとの比較を行い、超新星爆発機構への制限、宇宙論研究への応用を検討する。同時に、引き続き他波長での理論予測を行っていく。
再びマックスプランク研究所に滞在し、これまでの爆発理論の制限や改良の可能性について理論研究者と議論を行う。また、同研究所の観測研究者とはIa型超新星の観測をすばる望遠鏡およびVLT望遠鏡で共同研究で行っており、これまでの観測結果の議論や今後の観測計画について議論する。同研究所で9月に研究会が開催される予定であり、それに参加するとともにその前後に同研究所に滞在し議論を行う予定である。また、ストックホルム大学に滞在し、北欧を中心とする観測網で得られた観測データの解釈やそのために必要な理論計算について議論する予定である。その他、国内研究会に多数参加し、成果発表および議論を行う。また、本研究費を論文出版費にも使用する予定である。また、今後増加する理論計算データ、観測データの解析を進めていくうえで必要なコンピュータ、データ保存用機器、および本研究遂行に必要な書籍等も購入する予定である。今年度は、別の資金で購入したコンピュータを使用することができたため、物品購入費が予想より小さくなり、約20万円を2012年度に使用することとした。一方、2011年度は旅費が予想より大きく100万円程度となった。今年度もほぼ同様の旅費が必要となることが予想されるため、この次年度使用額を合わせることでちょうど本研究費からの補助で次年度の研究を遂行することができる。
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