研究概要 |
近年、太陽型原始星の形成領域において、有機分子の化学組成が天体ごとに大きく異なることが発見され、注目を集めている。本研究では、飽和有機分子に恵まれるホットコリノ天体と、炭素鎖分子に恵まれるWarm Carbon Chain Chemistry (WCCC)天体に着目し、世界の最先端望遠鏡を駆使した観測研究を展開した。 WCCC天体が原始惑星系円盤形成に向けてどのように進化するかについて、2つの方向から研究を進めた。第一は、WCCC天体の進化形の観測である。これについては、Class I段階にある原始星天体の化学組成のサーベイ観測を、国立天文台45 m電波望遠鏡などを用いて行い、候補となるClass I原始星天体TMC-1Aを発見した。第二は、WCCC天体L1527およびIRAS15398-3359について、それらの原始星近傍の化学組成分布を高空間分解能で観測することである。上記の2つのWCCC天体については、ALMAによる観測が採択され、そのデータが2013年1月に届けられた。予備的な解析から、CCHやc-C3H2のような分子が、原始星近傍の100 AU程度のスケールまで分布していることが明らかになった。一方、原始星方向ではそれらの存在量が減少している。この結果は、原始星円盤形成に伴う化学組成の変化を反映していると考えられ、極めて大きな意義がある。 一方、ホットコリノ天体、WCCC天体のような異なる化学組成をもつ天体が生まれる原因として、星形成に至るまでのタイムスケールが提案されている。それを明らかにする目的で、WCCC天体L1527の母体分子雲HCL-2領域について、センチ波帯のCH, OHのスペクトル線の観測を進めた。その結果、HCL-2領域が50 K程度の暖かく希薄な雲に取り囲まれている証拠を新たに見出した。その星形成への影響に大きな興味が持たれる。
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