これまでの電波望遠鏡による観測により、Class0段階にある太陽型原始星天体の化学組成は、その物理状態や進化段階が同じであっても大きく異なることが知られている。本研究では、そのような化学的多様性が、その後の原始星進化においてどのように伝播されるかを観測的に探求した。国立天文台野辺山45m電波望遠鏡、IRAM30m電波望遠鏡などによる分子スペクトル線サーベイ観測の結果、炭素鎖分子に特異に恵まれる原始星天体(WarmCarbon-ChainChemistr:WCCC天体)の進化形と見られる低質量原始星TMC-1Aを発見した。このことは化学組成の多様性がClassI段階にまで伝播していることを示している。一方、典型的WCCC天体L1527の原始星近傍における分子分布をALMA(AtacamaMillimeter/submillimeterArray)による観測で1秒角を切る高解像度で調べた。その結果、炭素鎖分子は回転しながら原始星に落下するガスに存在していることが明瞭に示された。また、炭素鎖分子は原始星近傍100AUスケールまで存在し、その内側で減少していることもわかった。この結果は、WCCC天体の化学進化の理解において極めて重要な糸口を与えるものと言える。さらに、ドイツ・マックスプランク研究所の100m電波望遠鏡を用いた観測によりWCCC天体を含む分子雲全体のCH分子の分布を調べ、WCCCを引き起こす原因が短い星形成までのタイムスケールにある可能性を検証した。
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