研究概要 |
平成25年度の最も大きな成果は、赤方偏移2.16にある形成途中の銀河団を詳細に調べ、論文として発表したことである (Tanaka et al. 2013, ApJ, 772, 113)。 すばる望遠鏡を用いて8時間積分という長時間の近赤外スペクトルを取得し、こういった形成途中の銀河団にすでに星形成活動を止めた、赤い銀河が存在することを初めて分光的に確認した。 さらに、そういった銀河のスペクトルを足し合わせることで、CaII H+K という古い銀河にとりわけ強い吸収線をわずかながら見ることができた。 これが本物の検出ならば初めての検出であるが、まだ確証を得るには至っていない。 より深いデータを取得すべく観測を続けているが、残念ながら今のところ天気に恵まれずデータが取れていないのが現状である。 関連して、以前に発見した赤方偏移1.62の銀河団をHerschel宇宙望遠鏡を用いて観測し、銀河の星形成活動を詳細に調べ、銀河団中心ではやはり星形成を止めた銀河が多いことを確認した (Santos, Altieri, Tanaka et al. 2014, MNRAS, 438, 2565)。 以前、他の研究で銀河団中心で星形成活動がとりわけ活発になっていると指摘されたが、そういう傾向はみられなかった。 近傍から赤方偏移1.6までにわたって、銀河団の星形成活動をより系統的に調べた研究代表者らの研究からも、そのような活発な星形成は確認されていない (Ziparo, ... Tanaka, et al. 2013, MNRAS, 434, 3089 と 2014, MNRAS, 437, 458)。 以前の研究は銀河団一つに基づいたもので、研究代表者らの行ったような統計的な研究がやはり重要であることを改めて確認した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の銀河団探査のメインの手法は、非常に深いX線データと可視・近赤外データを組み合わせて用いる、というものである。 現在、人類が持っている最も深いX線データのある Chandra Deep Field South で銀河団探査を行い、全ての天体をカタログ化した。 そこで発見した最遠方銀河団は我々がすでに出版した赤方偏移1.61のものであった (Tanaka et al. 2013, PASJ, 65, 18)が、このカタログは他のフィールドでは見つからないような小質量の銀河団を多く含んでおり、非常にユニークなカタログである。 現在、論文を投稿し査読中となっている。 このように最遠方銀河団の発見にはまだ至らないが、赤方偏移1.5を超えるような遠方で少しずつサンプルを増やしつつある。 これは統計的な研究には欠かせないもので、実際、このカタログは銀河団の星形成活動を系統的に調べた我々の研究において活用され (Ziparo, ... Tanaka, et al. 2013, MNRAS, 434, 3089 と 2014, MNRAS, 437, 458)、銀河団一つに基づいた過去の研究に疑問を投げかける結果が得られた。 本研究の主題である統計解析がやはり非常に重要であることを再確認した。 これらを総合すると、現在までおおむね順調に進展してきているといえる。
|