研究課題/領域番号 |
23740146
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
酒井 剛 東京大学, 理学(系)研究科(研究院), その他 (20469604)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 天文学 / ミリ波 / 受信機 / 分子雲 / 重水素濃縮 |
研究概要 |
大質量星は大質量な分子雲クランプ内で形成されるが、大質量分子雲クランプが形成されてから内部で星形成が開始されるまでのタイムスケールは、観測的にほとんど明らかにされていなかった。このタイムスケールを明らかにするには、分子雲の重水素濃縮度を調べることが有効である。分子雲内部では重水素濃縮が起きており、重水素濃縮度は温度と時間に依存することが知られている。したがって、星形成前の低温状態が長く続けば重水素濃縮度はより高くなる。一方、星形成が起きると温度が上昇し重水素濃縮度は解消されていく。しかし、中性分子の重水素濃縮度の解消は比較的ゆっくり起きて行くため、星形成後であっても星形成前の重水素濃縮度を維持していると考えられる。我々は、野辺山45m望遠鏡を用いたHNC、DNC J=1-0輝線を観測することで大質量分子雲クランプの重水素濃縮度を明らかにした。その結果、大質量なクランプでは、低質量な分子雲コアに比べ、重水素濃縮度が有為に低いことがわかった。この結果をモデル計算と比較したところ、星なしコアのタイムスケールは、小質量星のそれより明らかに短く、10^5年以下でなければならないことがわかった。また、ALMA望遠鏡の観測時間提案が採択され、今後、より高分解能な観測で上記の考えを検証することができる。 分子雲の重水素濃縮度をより正確に見積もるためには、分子雲の温度、密度を明らかにすることが重要である。そのためには多準位の分子輝線を観測する必要がある。我々は、J=1-0輝線の観測のため、すでに70 GHz帯受信機を野辺山45m望遠鏡に搭載しているが、今年度はJ=2-1輝線の観測のため140 GHz帯受信機の設計、製作を行った。光学系の設計、デュワーの設計などすべて完了し受信機を組み上げることができた。今後、この受信機を用い観測を行って行く予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
重水素濃縮度の観測結果については、モデル計算との詳細な比較を行うことで大質量星形成の星なしコア時代のタイムスケールについての重要な知見を得ることができた。この結果については、論文や研究会でも発表し、ほぼ順調に進展している。また、非常に競争率の高いALMA望遠鏡の観測時間の確保をすることもできており、今後新たな重要な情報が得られることが期待される。一方、野辺山45m望遠鏡用の140 GHz帯の受信機については、設計、製作を行うことができ、野辺山45m望遠鏡に搭載する準備を完了することができた。しかし、今年度実際に受信機を望遠鏡に搭載し観測することができなかった。これは、当初想定していたより野辺山45m望遠鏡の他の受信機開発が送れており、望遠鏡内に140 GHz帯受信機を搭載するスペースが確保されなかったためである。しかし、来年度は搭載できる目処がたっており、来年度にはこの140 GHz帯受信機を用いた観測を行うことができる。
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今後の研究の推進方策 |
大質量クランプの形成タイムスケールを見積もるために、ASTE望遠鏡を用いた中性炭素原子輝線の観測を行う。分子雲における中性炭素原子と一酸化炭素の存在量比は、分子雲が形成されてからの時間を反映していると考えられる。重水素濃縮度の観測結果と合わせ、大質量星形成のタイムスケールについて詳細な検討が可能になる。また、野辺山45m望遠鏡の70 GHz帯、140 GHz帯受信機を用い大規模なサーベイ観測を実行する。このため、すでに製作が完了している140 GHz帯受信機を、野辺山望遠鏡に搭載する。性能評価観測を行った後、観測を実行する。観測する天体は、我々がこれまでに観測してきた赤外暗黒雲や大質量原始星などである。様々な進化段階にある天体を観測することで、進化と重水素濃縮度の関係をより詳細に明らかにしていく。また、この観測から分子雲の密度、温度を見積もり、それら温度、密度を用いたモデル計算を行うことで、大質量星形成のタイムスケールの詳細な検証を行う。また、今後、ALMAによる高分解能観測が実行される予定である。この観測結果から分子雲のより内部での重水素濃縮度が明らかになる。より星形成に直結する領域の情報をしらべることができ、タイムスケールの見積もりをさらに精度よく行うことができる。これらの成果は早急に論文として報告し、データのwebでの公開も行いたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
ALMAによる観測データは非常に容量が大きく、解析にはより処理能力の高いコンピュータが必要になる。そのためのパソコンを購入する。また、受信機の性能向上のため、新たな受信素子の製作を行いたい。製作のための描画装置用のマスクを購入する。また、成果を海外での研究会で発表するための旅費が必要である。
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