研究概要 |
銀河系近傍の矮小銀河である大マゼラン雲(LMC)と小マゼラン雲(SMC)は、マゼラニック・ブリッジ(MB)とよばれるガスの連結構造で結ばれている。MBはLMC/SMCの力学的相互作用で作られたと考えられているため、その起源を探ることは大小マゼラン雲の歴史を紐解くうえで不可欠である。MBの背後に存在する複数の活動銀河核(AGN)を背景光源として、MB内部のガスの物理状態、および化学組成の解明を試みることが本研究の目的である。 すでにVLT/UVESによって取得されている7つのAGNの可視高分散スペクトル(R~40,000)に加えて、HST/COSによる紫外高分散分光観測(R~20,000)を十分なS/N比が見込める3天体に対して行った。前者はCa II H, K吸収線、Na I D1, D2吸収線の検出に用いられ、ダスト量の評価に必要な情報を与える。一方、後者は紫外域で強い吸収線をもつO I, Fe II, Si II, C II, Si IV, C IV などの検出が見込めるため、Cloudyを用いた光電離モデルの適用が可能である。視線方向による明らかな違いが存在することをすでに確認しており、遠方宇宙で検出されるDLAの対応物とも目されるMBが、極めて複雑な内部構造を持つことが徐々に明らかになっている。 可視分光データの解析は完了しているが、紫外分光データについてはデータ解析に通常とは異なる手続きが必要であることが分かった。具体的にはスペクトルの波長較正の精度に問題がある。データ解析に詳しいウィスコンシン大学の研究グループの協力により、間もなく解決される見込みである。なお、このグループは、LMC/SMCの相互作用によって作られたマゼラニック・ストリームに対して我々と同様な研究を行っているため、サイエンスに関しても、共著論文および学会での共同発表を行う予定である。
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