研究課題/領域番号 |
23740150
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
前原 裕之 京都大学, 理学(系)研究科(研究院), 教務補佐員 (40456851)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 光赤外線天文学 / 恒星物理学 |
研究概要 |
平成23年度には(1)自動サーベイ観測の自動撮像システムの開発、(2)観測データを蓄積するデータベースの詳細設計とデータ処理パイプラインの開発を行なった。また、(3)太陽系外惑星観測衛星の「ケプラー」の観測データを用いた恒星フレアの発生頻度の研究を行なった。(1)Linux上で動作する撮像ソフトウェアと望遠鏡制御プログラムを用いた自動観測プログラムを開発した。計画ではV等級で14等の極限等級で400平方度を1時間に1回撮影するシステムの開発を予定していたが、開発した撮像システムを評価した結果、V等級で13.5等、1時間に観測できる領域はおよそ450平方度(30度×15度)であり、やや限界等級が浅いが、ほぼ所定の性能を達成できた。(2)データベースにはMySQLを使用し、データ処理パイプラインはSextoractorとPyrafを主に用いたものを開発した。また、データベースに登録されたデータから新天体や変光天体の検出を行なうプログラムを開発した。データ公開用のCGIも作成し、 http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp:8080/~maehara/VSdata.py での公開を開始した。(3)ケプラー衛星の観測データのうち、既に公開されているデータを用いて、およそ16万天体の4ヶ月分のデータから、フレアの発生頻度についての統計的研究を行なった。太陽型星で365例、K型とM型で約1100例の恒星フレアを検出し、G,K,M型星で起こる太陽フレアの10~10000倍のエネルギーを持つフレアの発生頻度を明かにした。これらの結果についての査読論文1編が平成23年度中に受理された他、2件(共同研究者によるものも含めると5件)の学会発表を行なった。この結果は本研究で作成する自動観測システムによる結果とは独立した方法であり、結果を別な手法で検証する観点からも重要と言える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
自動撮像システムには当初の計画では市販のWindowsベースのソフトウェアを使用し、観測夜のスケジュールを記述するファイルを自動生成する予定であったが、評価版を使用して性能評価を行なったところいくつか実用上の問題があったため、Linux上で動作する撮像ソフトウェアと望遠鏡制御プログラムを用いた自動観測プログラムを新規に開発した。このため、定常的な観測開始が平成24年3月にずれ込んだ。また、上記に関連して観測装置格納のためのスライディングルーフの仕様決定に時間がかかったため、スライディングルーフの購入と設置を次年度に延期した。
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今後の研究の推進方策 |
23年度の研究の過程で判明した撮像システムに関連する問題点については、23年度末時点で解決できたため、24年度には(1)実際にデータを取得して検出天体の測光データベースを構築し、(2)突発天体や変動天体を撮像後すぐに検出する体制を整える。最終的に、(3)得られた観測データから、恒星フレアの発生頻度についての統計的研究を行ない、ケプラー衛星など他の手法による結果と比較研究する。(1)自動解析パイプラインの結果は直ちにデータベースに登録されるので、観測する各領域について複数夜の観測を実施し、測光結果を蓄積することで、検出天体の明るさの変動を調査することができる。このための全ての検出天体についての測光データベースを構築する。(2)既存天体の増光や、データベースに登録がない天体を検出した場合には、ローカルの変光星等のカタログデータベースや、CDSや小惑星センターのデータベースなどのオンラインリソースを用いて、検出天体が既知天体や小惑星かどうか等の判定を即座に行なう必要がある。変動天体や新天体の検出プログラムは23年度に前倒しして開発したため、24年度にはこれを、検出・測定パイプラインの一部として組込み、撮像時にリアルタイムで実行する体制を整える。実際に本システムによって実際に突発天体が検出された場合には、京都大学、京都産業大学、広島大学などのグループやVSNET等を通じた国際的な共同観測体制によって追跡観測を行う。検出できた突発天体についてはその都度得られた成果を発表する。(3)最終的に得られたデータから、恒星フレア、特に太陽型恒星のフレアの発生頻度について、得られた結果をとりまとめる。特に、23年度に実施したケプラー衛星の結果と本研究で開発したシステムによる結果とをあわせて検証し、それらの結果を発表する。
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次年度の研究費の使用計画 |
23年度に導入予定だった観測装置格納用のスライディングルーフは、自動撮像システムの変更に伴なって仕様の確定が遅れたため、24年度に導入を延期した。24年度前半にスライディングルーフの購入と設置を行なう。 現時点までの観測の結果、1晩に撮像できる画像はおよそ700枚、検出天体数は50万天体前後であることがわかった。観測システムの設置場所(京都大学花山天文台)での年間観測可能夜数はおよそ100~120夜であるので、年間で5000万件の検出天体データを格納し、それらを撮像後に短時間で検索することができるデータベースが必須となる。具体的には、1フレームの撮像には露出時間20秒、望遠鏡のポインティングに10秒、カメラからのデータダウンロードに約8秒がかかるため、1フレームの検出天体数(1000弱)について、過去の明るさの変化を蓄積済みの数千万件のデータと照合し、新天体や変光天体かどうかの確認を30秒以内に完了する必要がある。観測を続けるとデータが増え、検索にも計算機能力が必要となるため、天体データベース用の計算機およびデータをバックアップするためのハードディスクドライブを導入する。 平成23年度に実施したケプラー衛星のデータを用いた太陽型星のフレアについての統計的研究については、既に24年度中に開かれる国際会議での口頭発表が決まっている。この研究については恒星分野だけでなく、太陽や太陽系外惑星の研究者の興味関心があると思われ、K型やM型星のフレアの統計的研究や、太陽フレアとの比較研究の成果発表のための旅費や論文投稿料として使用予定である。
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