研究課題/領域番号 |
23740153
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
町田 真美 九州大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (50455200)
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キーワード | 理論天文学 / 銀河ガス円盤 / 磁気流体数値実験 / 磁気乱流 |
研究概要 |
渦巻き銀河は平均で数マイクロガウスの磁場が存在する事が知られており、この磁場の起源として弱い種磁場を増幅するダイナモ機構が考えられている。申請者は、渦巻き銀河の差動回転による磁場増幅機構に着目した磁気流体数値計算を行っている。本年度は昨年度の数値計算を基に、銀河磁場の増幅・維持機構は、銀河ガス円盤中で成長する磁気回転不安定性による磁場増幅とパーカー不安定性による銀河ハロー部への磁束流出のつり合いによって説明できる事を示した論文を執筆し、その結果はThe Astrophysical Journal,vol.764, p.81 (2013)に掲載された。本論文内では、その他、中心からの半径を固定すると、その半径での約10回転の回転周期で銀河ガス円盤内部の磁場が反転する事、銀河中心部にはアウトフローによって鉛直方向磁場が形成されるため、天の川銀河などで観測される、中心近傍では鉛直方向磁場が、中心から離れた位置では円盤部に平行な成分が卓越する構造は、本論文で指摘した磁場の増幅・維持機構で自然に説明できる事を示している。更に、数値計算結果をもとに、太陽系の位置から銀河中心に向かって回転量度を求めた所、観測で示されるような銀河中心に対して点対称となる回転量度分布が得られ、更に高銀緯方向には、磁場の反転も観測され、これは過去のダイナモ活動の痕跡を示す事も指摘している。 本年度は更に、初期条件として銀河円盤内部の磁束が無い場合について、より細かなスケールで反転する場合についての研究や、初期に鉛直方向磁場に貫かれているが、ゆがんだ磁場構造をしている場合などについての研究も行っている。また、より現実に近付けるために分子ガスによる冷却を加えた場合のテスト計算も行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度前半は、前年度の結果を論文としてまとめていた。その後、銀河磁場の増幅・維持機構が初期に仮定された磁場構造には準平衡状態にどのような影響を与えるかを調べている。その結果、初期に系全体で正味の磁場が無い場合には、局所的な磁場強度は正味の磁場がある場合と同程度まで増幅されるが、角運動量輸送率に対応するMaxwellストレスの非対角成分は小さくなり、質量降着率が下がる傾向が判った。これは正味の磁場が無い場合には大局的に貫く成分が無いために、乱流スケールが小さくなるためであると考えられる。磁気乱流は逆カスケードによって大きな渦構造を形成する事ができると考えられているが、現在の計算時間内では確認できていない。更に、より現実的な銀河ガス円盤の計算を行うために、エネルギー方程式に分子冷却項を加えた数値計算を行った。この計算では加熱源としての超新星爆発は加えておらず、磁気乱流による粘性加熱が十分卓越した状況を初期条件としている。その結果、円盤、高温コロナ共に急速に冷却されることによってCFL条件が短くなるために計算を中断した。原因としては、磁気乱流による粘性加熱のみでは熱源が足りない可能性、高温コロナとして仮定されているガス密度が大きすぎるために冷却が強く入りすぎている可能性などが考えられる。 本年度は妊娠のため医師より出張等を中止するよう指導されたため、8月以降に予定していた研究会参加は全て取りやめている。そのため、当初計画の通りに予算執行する事はできなかった。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度は産休及び育児休業のため前期は休業し、10月に復帰する予定である。 平成24年度の研究を踏まえ、初期磁場構造が準定常状態に与える影響を調べる。特に系全体に正味の磁場の無い場合、本年度の計算時間の範囲内では局所的には準定常状態になるが、系全体の質量降着率が低下するため、銀河中心まで物質を降着させる事ができなかった。実際の銀河では、磁気回転不安定性による角運動量輸送だけではなく、バーポテンシャルの効果や超新星爆発などの効果による角運動量輸送も重要になってくる可能性が高い。しかし、これまでの星質量ブラックホール降着円盤の研究から、ガスが中心まで降着した場合には、アウトフローが噴出し結果的に大局磁場が形成される事がわかっている。天の川銀河中心であるいて座A*でも同様の構造が見られるため、本年度は磁気回転不安定性の効果による角運動量輸送の効果に着目して調べる。平成25年度にはこれまで主に利用してきた国立天文台のスーパーコンピュータが更新されるので、これまでと同様の計算時間でおおよそ5倍程度長く計算を続ける事が可能になると考えている。 また、現実的な銀河ガス温度を再現するための分子冷却を加えた計算の初期条件作成を行う。本年度は磁気乱流による粘性加熱と冷却が釣り合う準定常状態となった数値計算結果を初期条件として、そこに分子冷却項を加えた計算を行った。その結果、加熱を上回る冷却によって、高温コロナ部分がガス円盤部に落下してくる事によって実行可能な計算時間内で結果を得る事ができなかった。そこで、本年度は冷却項と釣り合った初期条件を作成し、ガス円盤の進化を調べる。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度は産休および育児休業を前期に取得するため、使用予定額は少なくなる見込みである。 物品費(25万円):データ保存用のハードディスクの購入 国内旅費(30万円): 後期に行われる国内研究会への参加費、および研究協力者を招へいするために旅費として使用する その他(20万円):研究成果の公表のため、論文雑誌に論文を投稿し、その出版費として20万円を見込んでいる。
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