研究課題/領域番号 |
23740154
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研究機関 | 青山学院大学 |
研究代表者 |
井上 剛志 青山学院大学, 理工学部, 助教 (90531294)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2015-03-31
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キーワード | 星形成 / 衝撃波 / 磁気流体シミュレーション |
研究概要 |
星形成の現場である分子雲の物理状態に対する高度な知見を得る為に3次元の分子雲形成シミュレーションを行った。シミュレーションには本研究の為に新たに開発した、分子雲中での星形成の初期条件を探る為に必要不可欠である磁場の効果、原子ガスから分子ガスへの化学進化の効果、化学進化を支配する外部紫外光の遮蔽効果、輻射冷却と加熱効果、熱伝導の効果を取り入れた最先端の磁気流体力学コードを用いた。当初の計画通り、観測的に示唆される中性水素雲を含む濃密な星間媒質を初期条件とし、20pcの領域を1024の3乗の有限要素に分割して計算を実行した。この分解能(0.02)であれば、分子雲の内部構造の最小単位であり、また星形成の初期条件を決定する高密度分子雲コアを分解できる。上述の数値実験の結果、初期の中性水素雲が降着衝撃波を介して圧縮・集積され分子雲が形成される様子を再現することに成功した。形成された分子雲は、降着衝撃波と中性水素雲が相互作用する際に発生する渦によって非常に強い乱流状態となり、その統計的性質も観測される分子雲の超音速乱流を良く再現することが明らかになった。さらに、熱的不安定性と呼ばれる暴走的冷却の効果と乱流による構造形成によって分子雲内部は様々な密度階層のクランプの集合体となった。驚くべきことに、それらのクランプは統計的に一様に磁気的に超臨界な分子雲コアへ向かって時間進化することが明らかとなった。これにより星形成の初期条件は少なくとも各分子雲内では普遍的であるという新しい理論モデルを構築することに成功した。現在この成果を査読付き欧文誌に投稿すべく論文を執筆中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の計画通り、初年度に典型的なパラメーターを用いた現実的な分子雲形成のシミュレーションを行うことができた。得られたデータからは予想だにしなかった程の非常に豊富な知見を得ることができ、数十年来の重要課題である星形成の初期条件の解明に向けた第一歩を確実に踏み出している。また今後も当初計画に沿ってパラメータサーチを行い、今年度に構築した最新モデルがどの程度一般性を帯びているのかの検証をおこなっていく道筋も十分に整っている。得られた結果が当初予測よりも意義深いものであったという意味で計画以上に進展しているという自己評価とした。
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今後の研究の推進方策 |
今後は今年度得ることができた成果を基にして構築した理論モデルがどの普遍的であるかを見極める。その為に、重要なモデルパラメーターである初期の星間磁場強度や中性水素雲の集積速度を変化させたシミュレーションを複数行うパラメーターサーチを行う。本研究の究極的目標である星形成の初期条件を決定するためには、星形成をコントロールしていると考えられているが、これまでの研究では不定性が非常に大きかった乱流の起源や分子雲内部の磁場強度が何で決定されているのかを明らかにする必要がある。今年度得られた結果からは降着衝撃波で発生する不安定性が乱流を生成し、乱流によるダイナモ効果が分子雲内部の磁場強度を決めるという予測ができているが、このようなパラメーターサーチを行うことでこの理論的予測を数値実験として検証することが可能である。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度では次の3点を主要な研究費使途として計画している。まずパラメーターサーチしたデータを解析する為に大容量のハードディスクが必要であり、これを主要な物品購入費として予定している。また、今年度得られた非常に高度な知見を世界に向けて公表する為の論文出版費(査読付き欧文誌)が必要であり、これはその他経費として使用予定である。さらに、得られた成果を効率的に普及する為には海外での国際会議での発表や国内学会、研究会での発表を精力的に行う必要があるので旅費の使用が必要となる。
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