研究課題/領域番号 |
23740154
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研究機関 | 国立天文台 |
研究代表者 |
井上 剛志 国立天文台, 理論研究部, 助教 (90531294)
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キーワード | 大質量星 / 磁気流体力学 / 自己重力 / 衝撃波 / 星形成 / 分子雲 |
研究概要 |
大質量星と呼ばれる質量が太陽の10倍を超えるような恒星は強烈な放射による電離領域の形成から寿命の最後に迎える超新星爆発や中性子星、ブラックホールの形成に関わる天文学的に極めて重要な天体でありながら、その形成に関してはほとんど理解されていないのが現状である。近年の観測および輻射流体力学シミュレーションの進展によって、「大質量コア」と呼ばれる、通常の分子雲コアに対して100倍以上の大質量で非常に高密度な分子雲コアが重力崩壊することによって大質量星が形成され得ることが示されている。 しかしながら、「ジーンズ質量で100倍以上にもなるそのような大質量コアを自己重力分裂させること無くどのように1カ所に集めるのか?」というようなごく基本的な疑問にすら現状では答える術が無く、とにかく大質量コアがあったとすれば大質量星が形成されるという程度の理解しか得られていないのが現状である。観測的には、ごく最近になって、分子雲同士の衝突が大質量星形成の引き金となっていることが明らかになってきている。衝突している分子雲の質量は様々であるが、いずれの場合も衝突速度は10km/s程度(マッハ数50以上)と非常に高速なのが際立った特徴となっている。 このような背景から、本研究では観測が示唆する高速の分子雲-分子雲衝突を念頭に置いた3次元の自己重力的磁気流体力学シミュレーションを行い、大質量星の前段階となる高密度コアがどのように形成されるのかに対しての研究を行った。その結果、高速衝突によって増幅された磁場の追加的な反発力によって分子雲コアが非常に大質量になることが明らかとなった。この成果によって理論と観測の双方から大質量星形成の解明に迫る新しいシナリオを提唱することが可能になった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究の計画当初は手掛かりが全く無く、遠い目標と思われた大質量星の種となる大質量コアの形成機構を観測と連携することで明らかにすることができた。大質量コアに関しては、その形成に対して仮説すらも無いのが現状であったが、近年観測的に強く示唆され始めたシナリオが実際に実現可能であることを理論的に説得力ある形で示すことができた。今後の研究の進展いかんによっては天文学の教科書を書き換えるレベルの影響力を持つ仕事なると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度までに行った中小質量星の形成機構と合わせ、今後は星形成の初期条件に対する一貫した理論を構築し、その理論を検証する為の観測的スキームを提案する。まず第一に近年観測的に明らかにされだした分子雲フィラメントの形成機構を本研究で発見した衝撃波下流の収束流機構で説明することを試みる。この機構ではフィラメントの質量と磁場の方向に特徴的な相関が出現することが期待され、その観測的検証方法を提唱する。次に形成されたフィラメント状大質量コアの崩壊過程を高分解能シミュレーションし、その位置-速度図上の特徴を観測と比較する。この2点の理論構築によって数年内にモデルが観測的に検証可能となる。
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