これまでに行ってきた熱的不安定性を介した分子雲形成理論を応用して、宇宙初期の初代銀河形成期における熱的不安定性の役割について研究を行った。宇宙における構造形成は宇宙初期に存在する小さな密度揺らぎが重力によって成長し、やがて小さなスケールから重力崩壊が始まることで進んでいくと考えられている。宇宙で最初に形成される初代銀河は宇宙が現在の約20分の1の大きさであったころに崩壊を始めたハローの中で生まれると考えられているが、その詳細な物理過程は謎に包まれている。初代銀河の種となるハローは、すでに形成された初代星が合成した重元素に汚染されていると考えられており、そこでは重元素、主に炭素イオンや酸素の微細構造線による冷却が主要な冷却剤となって崩壊、つまり構造形成が進展する。重元素の存在量こそ異なるが、このプロセスは現在の天の川銀河の中で起きている星間雲の形成過程と物理的に極めて類似している。そこで本研究では微量の重元素を含んだ初代銀河ハローが冷却収縮する様子を解析的及び、3次元の流体シミュレーションの手法で研究した。その結果、内包する重元素量がある閾値よりも小さければ初代銀河ハローはまず熱的不安定で分裂し、その後に自己重力の影響を受けることが明らかとなった。この場合、初代銀河に含まれる星団スペクトルは熱不安定が決めることになり、その冪指数は-1.78となることが予想される。一方で重元素量が閾値よりも大きければ、収縮する初代銀河ハローは熱的不安定で Jeans質量よりも小さなスケールに分裂し、小さな雲が集積して乱流分子雲を作ってから星形成を行うことが予想される。このような銀河では現在の星形成と同様に非常に小さな効率で星形成をすると予言できる。本研究で得られた収縮の素過程は、今後の初代銀河形成論の最も基本的な文献として参照されていくことが予想される。
|