研究課題
早稲田大学那須観測所の20m鏡8機を用いて、掃天観測とデータ解析システムの開発を行った。データ取得後からアラートとして発令するまでの過程を構築した。1) Radio Frequency Interference (RFI)の除去 2)SNR変換 3)テンプレートデータベース(2011年度作成)との比較解析、フリンジの形状解析 4)フリンジの信頼度解析(Aoki, et al. 2012) を行う。現状、1)と4)は自動化が達成されていないため、人の手を介する必要性がある。2011年度の問題点として残っていた 3) の段階での閾値はやや低めの設定とし、4)で信号の信頼度を解析することとした。2012年度の研究過程で当初の計画にはなかった1)を加えた。2011年冬頃から観測データにこれまで見られなかった強いRFIが混信するようになった。2012年春頃には終日にわたり断続的に混信する状況が続いた。電波環境調査の結果、移動基地局による周波数漏れが原因である可能性が高いと明らかになった。RFIの傾向として方角特性は得られなかったが、時間特性は夜間や休日に減少する。観測周波数に漏れこみが発生するとデータ上には数秒から数分の幅をもったスパイク状の信号として現れる。受信システムでは周波数フィルターを二重にすることや中心周波数を1420MHzから1415MHzにシフトすることで対応を試みた。一定の改善はみられたもののデータ上には引き続きRFIが現れた。解析システムではRFI成分を除去するためのソフトフェアの開発を行った。天体のフリンジが含まれている場合でもそれを上回る強度のRFIが混信していると、RFIと認識され除去されることが問題点であるがテンプレートデータとの比較が可能となった。また、法的な面からも観測環境確保のため周波数保護指定の申請を試た。
2: おおむね順調に進展している
2012年度は20m鏡8機を4組の2素子干渉計として約80日間の掃天観測を行った。研究実績の概要に示したようにRFIの影響により、観測時間=有効なデータ取得時間を実現することは適わなかった。夜間や休日のデータを中心に解析を行った。突発現象の検出には至らなかったが3C 84等の強度変動を確認した。また、データ取得後からアラートとして発令するまでの解析システムを構築した。RFIの急速な増加は不測の事態であった。解析過程でRFIを除去するソフトウェアを開発し、テンプレートデータベースとの比較が可能になるよう対応した。このソフトウェアでは天体フリンジを崩すような強いRFIが混信するとフリンジとRFIの分離が適わず、天体情報も除去されてしまう。また、現時点でRFIの詳細な規則性を見出すことが適っていないため、除去をする際には人の手を介する必要性がある。従って、当初の計画に比べ速報の発信までにかかる時間が長くなる。開発したソフトウェアはこれらの問題点を含んでいる。しかしながら、信頼性の高いフリンジを検出することが重要であるため本研究の目的を満たすと考える。不測の事態により当初の計画にはなかった解析過程を挿入したが、解析システムの構築は達成された。
RFI対策として、データの安定性が保てない場合にはその一部を棄却する必要性が生じたため、観測時間=有効なデータではなくなったため、より長時間の掃天観測が必要である。引き続き、定常的な観測を行いデータの取得を行う。2012年度は広領域を優先させ、約2週間毎に観測赤緯を0.5度ずつ変更し掃天観測を行った。2013年度は長時間に焦点を当て、一つの赤緯に固定し、数か月間に渡り同じ領域を掃天観測する。解析過程におけるRFIの除去の自動化、若しくは人的な判断が必要なパラメータの数を減少させ、解析時間の短縮を実現させる。これらは2012年度のアーカイブデータに混信したRFIを基にして構築していく。また、2011年度に作成したテンプレートデータの更新を行う。2012年度に新たに取得したデータを組み込むと共に、NED等に公開されている天体情報を随時更新する。2素子干渉計における生データを基にしたテンプレートは観測領域内のみの取得となるが、観測領域外においても、注目すべき電波源が位置する領域のシミュレーションデータや他機関の公開情報を基にしたデータベースも作成する。本研究と類似の他機関におけるアーカイブデータの比較時やプロポーザル作成時に役立たせる目的である。
成果報告や情報収集のための学会参加、観測所への往復等のための交通費や旅費が2/3を占める。その他、学会参加費等の雑費、テンプレートの更新やデータ解析の補助をする人材確保のための謝金も支出予定である。また、観測所は私立大学の一研究室で管理・運営を行っているため、補修経費の一部も請け負う予定である。
すべて 2012
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件) 学会発表 (3件)
Publications of the Astronomical Society of the Pacific
巻: Volume 124,issue 914 ページ: 371-379
10.1086/665596
巻: Volume 124,issue 916 ページ: 616-623
10.1086/666592