研究課題/領域番号 |
23740159
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研究機関 | 国立天文台 |
研究代表者 |
古澤 久徳 国立天文台, 天文データセンター, 助教 (10425407)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 遠方銀河 / 銀河進化 / 宇宙論 |
研究概要 |
今年度は、すばる望遠鏡の主焦点カメラで取得した約2平方度の領域をカバーする深いzバンド画像の整約、およびカタログ作成を行った。本研究課題である赤方偏移7(z=7)の遠方銀河を検出するための画像深度を達成するため、データを30ショット程度ごとの積分単位に分割して画像の重ね合わせ(モザイク・スタック)を行うことで、画像解析に伴うS/N劣化を最小に抑えるよう解析ソフトウェアを整備し解析を行った。その結果、27.2等(1.5秒開口測光、5σ)の深度を達成することができた。このデータは、すばる望遠鏡で取得されたデータの中でも、この波長帯で最も深い天体まで写りかつ広い面積をカバーしたものの一つである。次に、このzバンドデータと、最新の公開近赤外データ(UKIDSS・UDSサーベイDR8)を組み合わせ、同一座標系に画像変換を行った上で天体測定することで、可視光から近赤外線にいたる多波長カタログを作成した。このカタログからz=7程度の銀河候補を抽出するため、zおよび近赤外Jバンドの等級差が2.5より大きな(非常に赤い)天体を検出した。赤方偏移により赤化したz-J>2.5の天体を選ぶことで、近傍の晩期型星やz=2程度の混同しやすい天体をほぼ排除できる。この閾値を用いた段階で、候補天体が約300個選ばれたが、候補天体の画像を精査する過程で、この多くには画像端や明るい星からの電荷溢れ、また近赤外検出器読み出しに起因するクロストークと呼ばれる疑似天体が含まれていることが分かった。また、z-J>2.5の閾値で除き切れなかった10個程度の晩期型星と思われる天体も含まれていた。目視による精査により、J=24.9等より明るいz=7候補天体をUDS視野全体で4個(うち2個は確度が高い)選定した。この候補天体を分光するための分光フォローアップ観測の提案書をすばる望遠鏡の共同利用観測枠に申請した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
23年度の研究計画は、すばる望遠鏡によるzバンドの観測を完了、データ解析方法の確立とそれを用いたデータ解析を予定していた。2011年7月に割り当てられていたすばる望遠鏡による本研究用の最終観測は望遠鏡の不調により遂行できなかったが、当初観測を予定していた2領域のうち、UltraVistaフィールドはほぼ全面で18時間以上、UDSフィールドについても半分の領域で16時間、残り半分で12時間程度の積分を完了しており目標に近い積分時間を達成した。解析後のデータの到達深度は最終目標に近い27.2等(5σ;最終目標は27.5等を設定していた)となった。現状ではz=7銀河の検出可能性はUDSのJバンドの深度(24.9等)の方が制限となっており、初期成果を得るためのデータとして大きな不足はないと考えている。データ解析手順については、データ分割によるモザイク・スタッキング方法により目標の深度に近い結果に到達でき、天候や大気揺らぎ(シーイング)の変化の影響などを考えると合理的な結果でありデータ取り扱い方法に大きな問題はないと考えている。z=7銀河候補選定は24年度の中心課題だが、追観測の申請を行うために、秋に観測条件の良いUDSフィールドについては先行して試行した。候補天体の検出数は過去の研究からの予想と矛盾せず、解析結果の合理性を間接的に支持している。UltraVistaフィールドについては一回目の公開データが発表されたばかりで、z=7銀河の検出をUDSフィールドと同定度に行うためのデータが揃うにはもう1シーズンほどがかかると思われるが、早期にUDSフィールドで実証した手順を応用し、同様に候補天体検出を試行する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
24年度はすばる望遠鏡のzバンドデータと近赤外データを組み合わせたマルチバンド天体カタログをUDSおよびUltraVista両フィールド2平方度について完成させ、全面に渡ってz=7銀河候補を検出する。それらの候補の各バンド光度および個数密度に基づいて科学的な議論を行う。議論は宇宙初期の銀河形成進化と宇宙再電離について行う予定である。まず、銀河形成進化については次のような検討によって制限を議論する。(1) z=7銀河の紫外波長(UV)光度関数を求め、特にこれまでで一番明るい等級での光度密度を決定する。z=7銀河の形成進化の様子を知るためには、明るい種族(ブライドエンド)のサンプルが統計的に不足している(特にUV>-22の非常に明るいサンプルはいまだ分光同定されたものもない)。本研究の広く深いデータから、光度関数のブライトエンドにこれまでで最も強い制限を付ける。 (2)候補天体についてモデルのスペクトルフィットを行い、星形成率、星質量、年齢などを求める(本研究の試行では2000万歳より若い)。また、紫外光の波長に対する傾き強さを求めることで銀河内ダストや金属量を求め、この時代の銀河の成長度、特性について制限を与える。また、次のような調査を行うことで宇宙再電離について議論する予定である。(1) 本研究による、この時代のUVで明るい銀河(ライマンブレーク銀河; LBG)と同時期のライマン輝線で強く光る銀河(LAE)の光度関数を比較することで、中性水素の残存率に制限を与える。(2)また、LGBのうち何割がLAEとして検出されるかを調べることで、再電離の進行度とLBGやLAEの存在する環境との関係を議論することが出来る。既存研究により、暗い銀河の方がLAE率が高いことが示唆されているので、これが本研究からの非常に明るい銀河でも成り立つかを調べ、再電離と環境の関係に知見を与える。
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次年度の研究費の使用計画 |
24年度は、観測データに基づいた科学的検討のための解析環境として計算機を購入する(30万円)。研究の過程で生成した最終的な天体カタログと解析済みの画像データを保存するためのファイルサーバおよびRAID装置もあわせて購入する(80万円)。これらに加え、研究のまとめと成果発表のための論文出版費(30万円)、および成果発表のための研究会参加旅費(20万円)が必要である。
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