最終年度ではLHCがその第一ラウンドの運転を終了し、その間に得られたデータを基に様々な解析を行い、その結果が報告された。そこから得られた重要な結果は以下の二つである。ひとつ目は、ヒッグスの質量は(昨年度の時点で示唆されたように)126GeV程度であり、その性質(他の素粒子達との相互作用)は素粒子標準模型の予言するヒッグス粒子と良く一致する事である。ふたつ目は、様々な標準模型を超える新物理の探索においてそのシグナルの証拠が得られなかった事である。これらの結果より、昨年度提案した最小超重力誘導型超対称標準模型(Pure Gravity Mediation supersymmetry breaking model)はやはり最も有望な新物理模型である事を確信し、今年度はこの模型のILC加速器実験への示唆(有望なシグナルや模型の検証可能性)について研究を進めた。 更に本年度最後になり、宇宙背景放射観測よりビッグニュースがもたらされた。初期宇宙におけるインフレーション由来の重力波の検出である。この事実はインフレーションのスケールが高く、その後の再加熱温度が10-100億度と高い可能性を意味する。そのため暗黒物質は初期宇宙において熱的のみならずグラビティーノ崩壊を通じた非熱過程でも生成される。本年度は、この非熱過程も考慮し、暗黒物質の残存量を正確に計算し、その質量が1TeV程度以下となる事を示した。また殆ど全てのパラメータ領域でウィーノが1TeV程度以下となる事も判明した。この結果はILC加速器実験にとり重要である。なぜならばILCの最終的な重心系の衝突エネルギーは1TeVであり、ILCにおいて本模型は直接及び間接検出を通じて検証できる可能性が高くなったからである。
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