研究課題/領域番号 |
23740173
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
末原 大幹 東京大学, 素粒子物理国際研究センター, 特任研究員 (20508387)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | ポジトロニウム / ジャイロトロン / グレーティング / 共振器 |
研究概要 |
ポジトロニウムは, 電子・陽電子が束縛された準安定な系であり, 束縛系の量子電磁力学(QED)の精密検証を行う上で重要な研究対象である.ポジトロニウムの超微細構造(HFS)は束縛系QED計算の進歩により近年2ppmの精度で求められ, 以前の測定(3.3ppm精度)と3.9σのずれがある. 過去の実験はすべてゼーマン効果を用いた間接測定であり, 未知の系統誤差の影響を検証するため、本研究では先進的なミリ波大強度光源および光学共振器を用いたポジトロニウムの超微細構造遷移の直接観測を行っている。平成23年度は前年末からの直接遷移の観測実験を継続し、得られた結果の妥当性を精密に評価した。測定では、陽電子の生成時間のタグおよびアクシデンタルバックグラウンドの除去のための特別な測定によりS/N比を向上させ、系統誤差を含めて5.4σで直接遷移の観測を確認した。また、いくつかの光源強度で遷移測定を行い、遷移確率が光源強度に比例していることも確かめた。光源強度測定の精度評価を精密に行い、直接遷移の遷移確率としてA = 3.1 (+1.6 -1.2)x 10^-8 /secを得た。これは理論予想3.37 x 10^-8 /secとよく一致している。 また、HFS値の精密決定のための開発研究を合わせて開始した。HFS値の精密決定のためには共振器内の蓄積パワーを増やす必要があり、そのためには耐熱性の高い銅板グレーティングを用いることが有用である。このような高いフィネスの共振器を銅板グレーティングで実現した例はこの周波数帯域では知られていない。シミュレーションによりグレーティングのパラメータを最適化し、試験を行った結果、金属メッシュを用いた従来のファブリー・ペロー共振器と同程度の性能が得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の計画と比べると、平成22年度末に兆候が見られた直接遷移の測定結果をより精密に確認することになったため、次の精密測定に向けた開発項目はやや遅れている。当初予定していた周波数可変のジャイロトロンについては、製作・測定を行ったものの、期待していた周波数可変性が現存のセットアップでは得られないことが測定の結果判明し、本実験への採用はいったん見送られることとなった。その代わりに共振部を交換可能なジャイロトロンを製作し、複数の共振部を交換することで周波数を変化させることにした。そのための測定は進んでおり、平成24年度はこれらの複数の共振部を用い遷移測定を行うことになる。グレーティングを用いたリング共振器の開発は当初の予定通り進んだ。ただし、ポジトロニウムの生成・検出効率の関係から従来のファブリー・ペロー型の方が最終的な性能が高い可能性があることも判明し、現在従来型のメッシュで耐熱性を上げるセットアップの可能性も検討している。真空での実験については、現在進んでいる精密測定の次のステップとして位置づけられたため開発は中断している。また、周波数測定とモニタリングに関しては、試験セットアップでの測定を行い周波数測定が行えることを確認した。継続的なモニタリングシステムの具体的な開発検討を現在行っている。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年秋から第一回のHFS値測定実験を予定している。5個のジャイロトロン共振器を用い、それぞれ準備含め1ヶ月程度の測定期間で、半年程度での測定を予定する。そのために本年前半で、用いる外部共振器の決定のためのシリコン基板上メッシュの製作・試験、新しいジャイロトロンに適合した光学系の開発、周波数モニタリングシステムの構築、共振器に適合したポジトロニウム生成・測定系セットアップを行う。平成24年度中にははじめての直接遷移を用いたポジトロニウム超微細構造の測定値が得られる見込みである。
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次年度の研究費の使用計画 |
光学系の試験のために石英結晶による半波長板を購入し、またシリコン基板上のメッシュ蒸着を行う。シリコン基板は前年の実験で窓板として購入したものを流用し費用を節減する。その他、国際学会発表の旅費等にも用いる。
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