研究課題/領域番号 |
23740175
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
FOLATELLI Gaston 東京大学, 数物連携宇宙研究機構, 特任研究員 (80600527)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 宇宙物理(実験) |
研究概要 |
2011年度においては、計画通り超新星初期スペクトルの解析を行った。特に、Ia型超新星のスペクトル中で、核反応を受けていない親星組成の証拠の特定を行った。その結果はFolatelli et al. (2012)にまとめられている。親星である白色矮星の組成である炭素がこれまで考えられていた以上に一般的に存在することを発見した。この研究は多くの観測者及び野本憲一教授をはじめとするIPMUの理論研究者との共同研究として行われた。特に、観測データと田中氏のスペクトルモデル計算とのシナジーにより核反応を受けていない物質のイジェクタ内での分布を再構築することができた。この核反応を受けていない物質はイジェクタの内部にまで存在することが確認され、これは爆発機構の理解に重要な示唆を与える。これらの結果は別のグループにより追試・確認されたが、どのようにして核反応を受けていない物質をイジェクタ内部に残すか、理論モデルに新しい制限を与えた。この研究結果は、2011年度に共同研究で行ったほかの研究-Ia型超新星における非対称爆発が観測される色・光度に与える効果(Maeda et al. 2011)、Ia型超新星の色のばらつき(Cartier et al. 2011)、近赤外域におけるIa型超新星の標準光源としての性質(Kattne ret al. 2012)、Ia型超新星の観測データ(Stritzinger et al. 2011)-と相補的である。さらに、データ解析手法においても特にXSHOOTER分光器のデータ解析において進展があった。これらは、現在まで観測された超新星のデータ解析・論文執筆において重要である((3)参照)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本課題は非常に大きな成功をもって進展している。様々なタイプの超新星について、非常に初期から密な観測スパンで素晴らしい質のスペクトルと光度曲線が得られている。これらの観測データと、日本および海外の共同研究者の提供する最新の理論モデルとの比較は本課題の主要な目的であり、初期スペクトルの解析による炭素(核反応を受けていない物質)の検出はその目的の一つを達成したと言える。この成果は、Ia型超新星の爆発機構の理解において重要である。今後は、Ia型超新星だけでなく重い星の爆発である重力崩壊型超新星(Ib、Ic、II型)についても爆発機構や親星の未解決問題に迫る予定である。これまで、異なる特徴を持つさまざまな観測機器のデータ解析を行ってきた。これにより、非常に密な時間間隔で得られた可視から近赤外にわたる大量の観測データの解析を行うことができる。このような非常に密な観測データは、イジェクタ内での組成や分布を特定するうえで不可欠である。私たちは、これまで最新の観測機器により多くの密な観測データを得ている。これにより、個々の超新星の詳細な解析を行う準備が整っている((3)参照)。
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今後の研究の推進方策 |
現在、本課題において3編の論文を執筆中である。(1)非常に高速な膨張速度を示したIa型超新星2010evの解析は私の指導の下Gutierrez氏(チリ大学)により進行中である。このような高速を示すIa型超新星の解析により、Ia型超新星の分光的性質の多様性に迫ることができる。(2)特異なIbc型超新星2010asの解析が私を中心に進行中である。この超新星は時間とともにヘリウム吸収線が強くなり、Ic型からIb型へと変化した。これは特異な超新星2005bfと似ており、比較的明るくなったことから大質量の星の爆発であると考えられる。(3)超新星2010aeの大量の観測データについても解析を進めている。これは特異なIa型超新星である2002cxと似ているが、低光度でかつ膨張速度も低い。2002cxタイプの超新星の親星・爆発機構はまだ未解明であり、2010aeの観測データはその解明に重要である。これら以外にも、Ia型超新星において核反応を受けていない物質のスペクトル研究をさらに進展させることを計画している。これによりIa型超新星の分光的性質の多様性を理解するとともに、宇宙論的標準光源としての精度を改良することを視野に入れている。2012年度には、チリ・ヨーロッパの共同研究者との共同研究を通し、さらに観測データを増加させる予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
2012年度においては、研究費の一部はcollaboration meetingや研究会に参加するための旅費として使用する。これにより、国外の研究者との直接的な共同研究が可能であり、また成果を発表しさらに研究を進展させるためのフィードバックを得ることができる。本年度秋には共同研究のため、チリのMillennium Center for Supernova StudiesとCarnegie Supernova Projectを訪問する予定である。この際には、Gutierrez氏(チリ大学)と超新星2010evの解析を進展させる。また、この滞在中にアルゼンチン天文学会にも参加し、Ia型超新星を用いた宇宙論について招待講演を行う。また、5月には京都で開催される国際研究会 "First Stars IV from Hayashi to the Future"、8月に中国・北京で開催されるIAU (国際天文学連合) General Assembly、9月にドイツ・ガーヒンで開催される "ESO/MPA/MPE Workshop on Supernovae"に参加する予定である。以上の私自身の研究滞在費に加え、IPMUを訪問する共同研究者の滞在費に本研究費を使用する予定であり、Stritzinger氏の訪問を予定している。また、本研究費を論文出版費にも使用する予定である。また、今後データ解析を進めていくうえで必要なコンピュータ、データ保存用機器も購入する予定である。
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