研究課題/領域番号 |
23740180
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
戸本 誠 名古屋大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (80432235)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 国際研究者交流 / LHC加速器 / アトラス実験 / μ粒子 |
研究概要 |
スイス・ジュネーブのCERN研究所にて稼働中のLHC-ATLAS実験は、2011年度中に、重心系エネルギー7TeVの陽子・陽子衝突データを5 /fbまで蓄積した。Z粒子やW粒子、さらには、ヒッグス粒子や超対称性粒子などの未発見素粒子が高運動量μ粒子に崩壊する事象は、高運動量μ粒子(現在は、10GeV以上の条件)によってトリガーされる。 このデータを用いて、μ粒子トリガー検出器の基本性能を調査した。具体的には、Z→μμ事象を用いて、μ粒子トリガー検出器の実際の設置位置が、設計位置から最大で5cm程度ずれている事を示した。さらに、この5cmのずれによって、μ粒子の運動量が1~2GeV程度変化することを導き出した。その結果、5cmのずれを考慮したμ粒子トリガー論理を構築し、2012年度以降は、そのトリガー論理に基づいてデータ収集が行われる。 さらに、Z→μμ事象を用いて、μ粒子の運動量や飛来角度の関数としてμ粒子トリガー検出効率を測定した。バレル部で80%、エンドキャップ部で90%の検出効率であることを導出し、シミュレーションの補正を行った。この研究は、トップクォーク対の解析などでも実際に使われた。 新物理に対する探索領域を拡大するため、余剰次元粒子が低運動量μ粒子に崩壊する物理過程の研究を行った。具体的には、欠損エネルギーと低運動量μ粒子を組み合わせたトリガー系の構築と、事象選別の確立を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Z→μμ事象などの実データを用いて、μ粒子検出器の基本性能を測定することに成功した。検出器の設置位置測定に基づき、トリガー検出器のキャリブレーションにフィードバックをかけた。これにより平成24年度のデータ収集効率が向上するはずである。 さらに、それらの解析結果がトップクォークや新物理探索など、LHC-ATLAS実験にて特に重要な物理研究に適応可能であることを示した。 以上から、初年度の研究達成として妥当であると評価し、「おおむね順調に進展している」とした。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度は、さらに高いビーム強度、さらに高い重心系エネルギーによる陽子・陽子衝突(8TeV)のデータ収集が期待できる。この新たな実験環境において、平成23年度に実施した、Z→μμ事象やトップクォーク事象などを用いた、μ粒子検出器の性能を評価し、広いμ粒子の運動量領域をプローブとした新しい物理探索研究に適応できるまで検出器のキャリブレーションを実施する。 実際に、超対称性粒子や余剰次元粒子のμ粒子崩壊過程の探索を実施し、研究成果として発表する。
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次年度の研究費の使用計画 |
実験現場であるCERN研究所への外国旅費、具体的には、申請者と申請者が指導する大学院学生のCERN派遣旅費が次年度の研究費のほとんどを占める。国内旅費や計算機周辺機器(ディスクや通信機器など)などの小規模な研究が続く。
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