研究課題/領域番号 |
23740180
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
戸本 誠 名古屋大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (80432235)
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キーワード | 素粒子実験 / LHC加速器 / ATLAS実験 / μ粒子 / 余剰次元粒子 |
研究概要 |
CERN研究所のLHC-ATLAS実験は、平成23年度に、重心系エネルギー7TeVの陽子・陽子衝突データを5 /fb、平成24年度に、重心系エネルギー8TeVの陽子・陽子衝突データを20 /fb収集した。 これらのデータを用いて、昨年度に引き続きμ粒子検出器の設置位置測定を行い、昨年度よりもより高精度な測定が可能になった。この測定値により、μ粒子検出器が設計位置から最大で5cm程度ずれていることが明らかになり、この設置位置を考慮して再構築したμ粒子トリガーを導入した。新しいμ粒子トリガー評価を動作試験をZ→μμ事象を用いて行い、トリガー回路系によって算出される運動量の分解能が向上したことを確認した。これにより、μ粒子を含む事象の収集効率が向上したと結論できる。さらに、これまでは使われていないが将来のデータ収集ではトリガーに用いる予定のμ粒子検出器に対しても同様の解析を行い、設計位置と実際の設置位置の間には、最大で数cm程度のずれがあることを確かめた。この結果は高輝度LHC実験においても低い運動量閾値でμ粒子トリガーを稼働させるために必要不可欠である。 こうして獲得したμ粒子をデータを用いて、余剰次元粒子探索を推進している。余剰次元粒子が別の余剰次元粒子へと崩壊する時、μ粒子を放出しうる。放出されたμ粒子の運動量は崩壊前後の2種類の余剰次元粒子の質量差に依存する。質量差が小さなモデルに着目して、低運動量μ粒子と、安定な中性余剰次元粒子による大きな欠損運動量を終状態にもつ過程に着目した研究を展開している。現在、プレリミナリー結果を出す段階で、論文として発表するのは、次年度の研究に引き継ぐ。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
運動量分解能に感度があるμ粒子検出器の設置を位置を高精度に測定し、μ粒子トリガー検出器のキャリブレーションに役立たせた。さらに、Z→μμ事象などの実データを用いて、平成24年度のμ粒子を含むデータ収集の効率が向上していることを確認した。これにより、低い運動量閾値でも背景事象を抑制しながらデータ収集できるμ粒子トリガー系を構築することを可能にした。 このように得られたデータ解析を実施し、新しい素粒子現象である余剰次元粒子探索を開始させた。 以上から、2年間の研究達成度として妥当であると評価し、「おおむね順調に進展している」とした。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度はLHC加速器とATLAS検出器のシャットダウン時期である。平成23年度と24年度に蓄積されたデータ解析を前年度に引き続き実施し、μ粒子検出器の評価をまとめ、シャットダウンの後に再開される実験に対して、検出器の初期キャリブレーションを提供する。 前年度から本格的に始動させた余剰次元粒子の探索をまとめて、論文として発表する。
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次年度の研究費の使用計画 |
実験現場であるCERN研究所への外国旅費、具体的には、申請者と申請者が指導する大学院学生のCERN派遣旅費が次年度の研究費の大半をしめる。国内旅費と計算機周辺機器などの小規模な研究が続く。
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