研究課題/領域番号 |
23740183
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
三塚 岳 名古屋大学, 太陽地球環境研究所, 研究員 (00566804)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 国際研究者交流 / イタリア / スイス |
研究概要 |
本研究はLHCf実験において中性K中間子および中性パイ中間子を観測し、TeV領域での中性K/パイ中間子事象数比を測定する事を主な目的としている。平成23年度は、LHCにおける陽子陽子衝突データ(衝突エネルギーは7TeV)を用いたガンマ線解析から開始した。この解析はまずパイ中間子崩壊から生成されるガンマ線を単独で解析する事によって、検出器に起因する系統誤差やガンマ線の事象再構成性能等を確認する意味合いを持つ。なお7TeVという高エネルギーハドロン相互作用から生成されたガンマ線を超前方領域で観測した例は世界初であり、宇宙線物理のほか高エネルギー素粒子物理の観点からも重要な意味を持つため、ガンマ線事象解析を投稿論文として発表した(Phys. Lett. B 703 (2011) 128-134)。その後、中性パイ中間子の解析に移った。ここではパイ中間子崩壊から生成される二つのガンマ線の同時再構成が課題となるが、これも問題なく完了し申請者が代表となり日本物理学会で結果を発表している(日本物理学会、弘前大学、2011年9月)。最後に(1)検出器特性や事象再構成アルゴリズムが原因となって起こる横運動量スペクトラムの歪みを補正する手法(Unfolding)を確立し、さらに(2)パイ中間子横運動量スペクトラムに影響を及ぼす系統誤差の見積もりも終了したため、パイ中間子の横運動量スペクトラムを申請者が国内学会および国際会議で発表した(日本物理学会、関西学院大学、2012年3月およびUHECR2012シンポジウム、CERN、2012年2月)。平成23年度は合計3週間程度イタリアに滞在し、その間イタリア側の検出器担当者であるO. Adriani氏やA. Tricomi氏と共同で事象再構成アルゴリズムの開発も行っている。結果、申請者が日本で開発したアルゴリズムと同等の性能を獲得している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成23年度の研究計画は主に中性K中間子、パイ中間子の観測を目的とした(1)検出器シミュレーションの高度化、(2)事象再構成アルゴリズムの開発、の2点である。(1)に関しては、まずLHCf実験が2007年にCERN-SPS加速器において取得した電子ビームデータの解析を行った。ここではLHCfカロリメータから漏れだす電磁シャワー量の見積もりを実験データとシミュレーション間で比較し、シミュレーションがデータを再現出来ていない部位を明らかにした。最終的に検出器シミュレーション内のパラメータを変更しデータとシミュレーションの再現性を向上させている。(2)に関しては、申請者が合計3週間イタリアへ滞在し、イタリア側の検出器担当者(O. Adriani氏、A. Tricomi氏)と共同で事象再構成アルゴリズムの開発を行った。結果的に目標とした精度を達成しており、2個のガンマ線からパイ中間子の静止質量を再構成する事にも成功している。さらに事象再構成の高度化以外にもガンマ線解析、パイ中間子解析結果をまとめ投稿論文や国際会議等で発表している。これらは当初の予測を超える進捗であり本研究は概ね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度は平成23年度の成果に基づき、いよいよ中性K中間子の再構成に移行する。中性K中間子は2個の中性パイ中間子に崩壊し、最終的に4個のガンマ線へ崩壊する。4個のガンマ線を再構成するアルゴリズムは平成23年度に完成しているが、そこからK中間子の質量を導くためにはK中間子の静止質量で制限をかけたフィッティング(所謂mass constrained fit)が必要になる。このフィッティングの精度を向上させるためにはモンテカルロシミュレーションに基づいた研究が不可欠である。さらにバックグラウンド事象との選別プログラムの改良のためにも大量のシミュレーションが必要になる。従って年度当初から大型計算機を用いたシミュレーションの作成を行う。上記と平行して、解析結果に与えるべき系統誤差に漏れが無いか2007年および2010年にCERN-SPS加速器で取得したキャリブレーションデータの再解析も予定している。シミュレーション作成が終了したのち、K中間子と平成23年度に大方終了したパイ中間子の生成数比を求め論文にまとめる。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度はモンテカルロシミュレーションの作成を予定しており、そのために必要な大型計算機の整備に多くの研究費(おおよそ平成24年度予算の半額程度)を割り当てる予定であり、最も優先度が高い。一方でイタリアグループとの連携や理論研究者との議論も本研究を遂行する上で不可欠である。従って計算機購入以外の予算を主にイタリアおよびCERN(スイス)渡航や国際会議出席等に割り当てる。またK中間子生成数はエネルギー領域やラピディティ領域によっては非常に少数になり、従って中性K中間子/パイ中間子生成数比の解析は数理統計のより正確な理解に基づく必要がある。そのために研究費の一部を用いて統計処理の書籍を購入し数理統計処理の学習も考えている。
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