本研究は、LHCf実験において中性Kメソンおよび中性パイメソンを観測し、TeV領域での中性K/パイ事象数比を測定する事を主な目的とする。この測定により、一次宇宙線と大気の衝突で生成されるK/パイの事象数比に依存した、大気ニュートリノフラックスの電子ニュートリノ/ミューニュートリノ事象数比を高精度で決定することが可能となる。 最終年度は、まずLHCf検出器の電磁シャワー観測特性をより正確に把握するため、2007年にCERN-SPS加速器において行った電子ビームテストでの実験データを解析した。特にLHCf検出器に数百GeVの電子が入射した際の、電子入射位置同定やエネルギー再構成精度を精密に見積もった。また、この特性を検出器シミュレーションに反映させ、これまで以上に高精度のモンテカルロシミュレーション生成を達成した。 次に、sqrt(s)=7TeV 陽子-陽子衝突データを解析し、陽子ビーム衝突点より最前方へ生成された中性パイオンのラピディティ分布と横運動量分布を導いた。中性パイオン横運動量分布はK/パイ事象数比測定の基準スペクトラムに相当する物であり、この解析でK/パイ比測定の土台が完成したと言える。さらにこの横運動量分布は、高エネルギー宇宙線-大気原子核衝突により生成される空気シャワーの発達を理解する上で欠かせない情報であり、今後の空気シャワーシミュレーションの精密化に大きく貢献出来る。 最後に、中性Kメソン解析をシミュレーションと実験データの双方を用いて行った。LHCf実験で観測できるKメソンは、生成点から崩壊までに数十m飛行するので、その崩壊ヴァーテックスを不変質量の制限を組み込んだLikelihood法を用いて同定している。シミュレーションおよびデータの双方でLikelihood法が正常に作動する事を確認した。今後は中性Kメソンのエネルギーおよび横運動量分布の導出を行う。
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