研究課題/領域番号 |
23740185
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
森島 邦博 名古屋大学, 現象解析研究センター, 研究員 (30377915)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 素粒子実験 / 原子核乾板 / 中性子 / 自動飛跡読み取り |
研究概要 |
地下実験における検出器の高感度化に伴い精密な中性子フラックスの理解が非常に重要となってきている。特に、暗黒物質探索実験に於いては、その検出原理は同じであるため、主要なバックグラウンド源となり、その理解は不可欠である。このような中で、これまでに行われていない測定手法である原子核乾板を使った中性子フラックスの理解は他の検出手法による測定値との比較の意味においても、極めて重要である。中性子の原子核乾板による検出原理は、乳剤を構成する要素である水素原子核を中性子が散乱する事で記録される反跳陽子の飛跡を検出である。しかし、対象とする数MeVのエネルギーの中性子の飛跡の長さは原子核乳剤中で数十ミクロン程度と短い。また、このような短い飛跡においてはガンマ線による反跳電子がバックグラウンドとなってしまう。これらを解決するために、読み取りアルゴリズムの改良、及び中性子検出に最適化した原子核乳剤の開発を行う。新たな乳剤の開発は、名古屋大学F研究室にある乳剤製造装置を用いる。従来の原子核乾板による中性子認識アルゴリズムの開発、及び新しい乳剤の評価を、これまで我々が開発してきた超高速自動飛跡読み取り装置S-UTSを用いて行う。更に、本技術の実証として、FNSや産業総合技術研究所などの中性子ビームライン上での照射、地上での環境中性子への照射などを行い、中性子検出効率の導出、及び中性子フラックス測定を行う。これらを実施する事で、将来的な地下での測定へと繋げる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでにFNS2.4MeV中性子ビームラインで照射を行い、その反跳陽子飛跡の自動読み取りテストを行った。乾板中には環境放射線によるバックグラウンド飛跡も大量に蓄積されており、それらも全て読み出されるために、飛跡の濃さと相関がある飛跡の出力信号の大きさで閾値を設定し中性子起因の反跳陽子のみを選び出す処理を確立した。また、同様に、産業総合技術研究所の中性子標準場において14MeV中性子の照射を行い、飛跡長と散乱角度の関係を実測し、エネルギー測定の可能性の検証を行った。現在、これらの検出効率を求めるための新たな測定実験の実施を計画している。これらの技術開発と共に、本技術手法の検証として、イタリアグランサッソ地下で行われているOPERA実験において、地下に数年間設置されていた原子核乾板の現像を行い、その解析を開始した。
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今後の研究の推進方策 |
読み取り技術の開発をこれまでのOPERAフィルムのみではなく、新しい乳剤においても開始する。今年度は、新しい乳剤への単色中性子ビームの照射を行い、その応答の理解に努める。特に、読み取り技術に関しては、これまでの40ミクロン程度の飛跡を対象とした読み取りアルゴリズムを、更に短い10ミクロン程度まで引き下げることを考えている。また乳剤については、いくつか異なった組成のものを試作し、それらについて、ガンマ線と中性子の識別能及び感度についての評価を行う。実測としては、地上に一定期間原子核乾板を設置し環境中性子の測定を行う。また、現在、原子核乾板を用いたニュートリノ振動実験OPERAを行っているために、すでに乳剤取り扱い施設を地下に持つイタリア・グランサッソ研究所の地下施設において、乳剤の塗布から現像、更に日本へ持ち帰り読み出しを行い、地下施設における中性子測定技術の実証を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
乳剤開発の為の試薬、読み取り装置のアルゴリズム開発のための解析環境構築、検出器組み立てのための装置開発費、及び実験に使った原子核乾板の現像などに伴う処理費用。中性子照射のための実験施設への旅費、及び研究成果報告のための会議出張費。
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