研究課題/領域番号 |
23740187
|
研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
吉岡 興一 慶應義塾大学, 理工学部, 准教授 (80363323)
|
キーワード | 素粒子論 / ニュートリノ |
研究概要 |
1.対称性の破れに焦点をあて、前年度に引き続き、超対称性の破れについて研究を行った。ゲージ伝達による機構では、F 項による破れは一般にゲージーノに質量を与えられないことが知られており、我々は D 項を用いる超対称性の破れを考察した。とくに、F 項のみのポテンシャルが有限の場の配位に真空をもたず、D 項により初めて安定な真空が現れる場合に着目した。この場合の利点は、ゲージーノ質量の問題を引き起こす F 項ポテンシャルの真空縮退が現れず、かつ、古典レベルで R 対称性の破れが起きる可能性があることである。我々はそのような模型を系統的に調べ、最も簡潔な形を提唱した。またポテンシャル解析や伝達部分の構成により、実際にゲージーノ質量が輻射補正により生成されることを示した。 2.右手型ニュートリノに質量を与えるスカラー場が暗黒物質である可能性をさらに追究した。ニュートリノ質量がディラック型の場合は、古典レベルでの崩壊が主要となるが、マヨラナ型の場合は、1ループの量子補正を通じた暗黒物質の多様な崩壊モードを評価する必要がある。また、右手型ニュートリノの質量の大きさによって、主崩壊モードも変わりうる。標準模型のさまざまな粒子への崩壊率を評価し、次年度へつながる解析をおこなった。 3. 標準模型の3世代を拡張し、ベクトル的な2世代を加えた模型を考察した。とくに今年度に発見されたヒッグス粒子の質量や、標準模型の予言から有意なずれが見出されているミューオンの異常磁気能率について詳細な評価をおこなった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ニュートリノ力学にともなう新しい物理描像を多角的に考察する試みとして、対称性の破れや、スカラー暗黒物質のさまざまな性質、多世代模型におけるヒッグス質量とミューオンの磁気能率などについて研究を進めた。基礎理論におけるニュートリノの本質的役割の理解へ向け、おおむね順調に進展していると言える。
|
今後の研究の推進方策 |
引き続き、対称性によるニュートリノ力学の考察や、それに伴い必要となるさまざまな場の理論的研究をおこなってゆく。まず右手型ニュートリノの力学に関して系統的な取扱い法の研究を進める。さらに、前年度までに得られた暗黒物質崩壊の解析を発展させ、とくに フレーバーと CP の結びつきより ニュートリノ物理の検証をおこなってゆく。自然界にはさまざまな階層性が存在しており、例えば時空構造による統一はその重要な解決を与えうる。新しい力学を示唆するニュートリノ物理と階層性問題は、統一理論を目指すアプローチの中で密接に関連していると想定され、その可能性を追究し、前年度までの結果と合わせて発表する。
|
次年度の研究費の使用計画 |
設備備品 (専用計算機) の費用として、今年度までは少額のみ使用した。次年度に、より高度な機器の費用として用いる予定である。また、研究目標の達成の為には幅広い視点で現象論的課題を遂行してゆく必要があり、専門図書の購入、分野外研究者の招聘、さまざまなテーマの研究会への参加等をおこなう。
|