研究課題/領域番号 |
23740189
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
寺嶋 靖治 京都大学, 基礎物理学研究所, 助教 (20435621)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2015-03-31
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キーワード | 素粒子論 / 超弦理論 |
研究概要 |
Kerr/CFT 対応と呼ばれるゲージ/重力対応の一つを研究した。このKerr/CFT 対応は、超対称性や超弦理論を仮定しないので、量子重力の一般的な性質を調べるのに非常に重要なものであると考えている。この対応は、まず早く回転している一般的なブラックホールに対して、その時空の地平面付近を考える。この時に、適当な境界条件の下で2次元の共形場の理論の無限次元対称性が現れることが示されることから、この2次元共形場理論(CFT) が回転ブラックホールのホログラフィック双対であると主張する。この対応が成立する根拠の主要なものは、この強力な対称性を使って、ブラックホールのエントロピーの計算が可能であり、正しい答えを出すことである。しかし、この対応は様々な謎、問題を持っている。例えば、超弦理論の中でこの対応が成り立つ具体的な例を構成できておらず、場の理論側の詳細な情報が決まっているような模型が存在していない。また、そのような状況のために、そもそもなぜKerr/CFT対応が成り立つのかという疑問がある。このKerr/CFT 対応の一つの具体的な導出を行った。超対称性がある場合のブラックホールについては、AdS3/CFT2 対応と呼ばれる、超弦理論の枠の中でも具体的に考えることができる対応がしられている。我々は、エントロピーがなくなるような特殊な極限では、実際に回転ブラックホールの時空の地平面付近の対称性がAdS3/CFT2対応で現れる対称性とみなせることを示した。この結果は、超対称性などによらない量子重力の性質が理解に有用であると考えている。また、ある一般的なクラスの4次元N=2超対称ゲージ理論の低エネルギー有効理論の厳密解についても調べた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究目的の達成には、ゲージ/重力対応のさらなる理解、特に、超対称性や弦理論などを仮定しない場合の理解が不可欠である。この点に関して、Kerr/CFT対応の研究を通じて理解が進んだと考えている。実際に、理解がはるかに進んでいるAdS/CFT対応との具体的な関係がついたことは、ゼロエントロピーという特殊な極限ではあっても今後の発展に重要であると考える。もちろん、大きな研究目的である量子重力における一般化された幾何の理解という意味では小さな一歩という状況ではあるが、今年度の結果を利用して、次年度以降この研究目的達成に向けて研究する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
前年度の結果を踏まえ、二つのアプローチを統合して、量子論的な重力の背後にある幾何にアプローチしたい。具体的には、不安定なDブレーン系を用いた行列模型と、そのゲージ/重力対応からの理解を深め、そこから時空の幾何学を理解したい。この行列模型では、粒子的なDブレーン-反Dブレーン系を超弦理論の基本的な自由度と考えるため、必然的に超対称性を持たない。また、現在までのところ、このような行列模型を物理的な結果を引き出せるような形で正しく定式化することはできていない。しかし、時空の次元が実質的に2であるような特殊な弦理論の場合には、実際にDブレーン-反Dブレーン系が弦理論の非摂動的な定式化を与えることが最近わかってきていることから、このような行列模型を高次元の一般の超弦理論に対して定式化することは可能であろうと考えている。特に、今年度の超対称性を仮定しないKerr/CFT 対応についての理解を通じて、この行列模型の正しい定式化、または、新しい超弦理論の非摂動的な定式化をどうするべきかの指針が得られると考えている。
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次年度の研究費の使用計画 |
本研究によって得られた結果を国内や国外の会議等で発表したい。さらに、内外の研究者と本研究課題の内容について議論をすることにより、より一層研究の進展が計れると考えている。この研究では直感的な理解がなされていない抽象的な対象を扱うために、さまざまな例を具体的に調べていくことは非常に重要である。このために、計算機上で数式処理ソフトを使うことが必要であり、十分高速の計算機が必要とされる。今年度の研究に関しては高速の計算機の必要性がそれほど高くなかったため、次年度の研究費で購入する予定である。また、新しい素粒子論、特に超弦理論の物理的な結果、さらに知られている数学の結果を知ることは重要なことであるのは明らかであり、そのために図書の購入が必要になる。
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