研究課題/領域番号 |
23740189
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
寺嶋 靖治 京都大学, 基礎物理学研究所, 助教 (20435621)
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キーワード | 素粒子論 / 超弦理論 |
研究概要 |
今年度は、主にM理論と呼ばれる超弦理論の強結合極限で定義されると考えられる理論について主に研究した。このM理論では超弦理論の様々な双対性が幾何的な対称性として実現されると考えられている。この双対性は、典型的には、強結合理論と弱結合理論の間の等価性であり、量子論的な効果が非常に強く効くような理論を古典的な理論として解釈できる。このことから、研究目的である量子論的な重力の背後にある幾何を探るうえで、M理論を理解することは非常に重要であることがわかる。特に、M理論に存在する高次元の物体(Mブレーン)上の有効理論を調べることの重要性は、超弦理論において、Dブレーンが非摂動的な理解において決定的な役割を果たしていることから明らかであろう。 具体的には、本年度の研究では、M5ブレーン上で実現される6次元超対称場の理論に関して研究した。この場の理論が存在することは超弦理論の考察から予想されているが、どのような理論なのかはわかっていない。この理論について、まず、ユークリッド化した時間を非常に小さくした極限で。空間を5次元球にした場合の超対称変換と作用を決定した。これにより、この理論の厳密な分配関数の計算が可能になった。この結果は6次元超対称場の理論からM理論を理解するうえで重要だと考えている。 また、M5ブレーンとM2ブレーンの超対称性を保つ束縛状態を、M2ブレーン上の理論上で構成することを行った。具体的には、M2ブレーン上の3次元場の理論の古典的な運動方程式の新しい解で、超対称性を保つようなものを見つけた。これは、仮想的な6次元理論を決定するのに重要であると考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究目的の達成には、ゲージ/重力対応のさらなる理解、特に、ゲージ理論の側の強結合での理解が不可欠である。この点に関しては、未だほとんど理解が進んでいないM理論のブレーンに関しても、超対称性を使った厳密な解析をすることで、少し理解が進んだと考えている。M理論は本質的に強結合の理論であるので、このような厳密な結果は、今後の発展に重要であると考える。もちろん、大きな研究目的である量子重力における一般化された幾何の理解という意味では小さな一歩という状況ではあるが、今年度の結果を利用して、次年度以降この研究目的達成に向けて研究する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
前年度の結果を踏まえ、量子論的な重力の背後にある幾何にアプローチしたい。具体的には、不安定なDブレーン系を用いた行列模型と、そのゲージ/重力対応からの理解を深め、そこから時空の幾何学を理解したい。この行列模型では、粒子的なDブレーン-反Dブレーン系を超弦理論の基本的な自由度と考える。しかし、力学的な情報をこのような行列模型から引き出すことは、現在までのところまったくできていない。しかし、時空の次元が実質的に2であるような特殊な弦理論の場合には、実際にDブレーン-反Dブレーン系が弦理論の非摂動的な定式化を与えることが最近わかってきていることから、このような行列模型を高次元の一般の超弦理論に対して定式化することは可能であろうと考えている。特に、今年度のM理論など様々な状況でのゲージ理論側の理論の理解を通じて、このような行列模型の正しい定式化、または、新しい超弦理論の非摂動的な定式化をどうするべきかの指針が得られると考えている。
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次年度の研究費の使用計画 |
本研究によって得られた結果を国内や国外の会議等で発表したい。さらに、内外の研究者と本研究課題の内容について議論をすることにより、より一層研究の進展が計れると考えている。この研究では直感的な理解がなされていない抽象的な対象を扱うために、さまざまな例を具体的に調べていくことは非常に重要である。このために、計算機上で数式処理ソフトを使うことが必要であり、十分高速の計算機が必要とされる。今年度の研究に関しては、数式処理ソフトの必要性がそれほど高くなかったために、ソフト等を購入せずに未使用金が生じたが、それについては次年度に購入する予定である。
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