研究課題/領域番号 |
23740190
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
下村 崇 新潟大学, 理学部, 研究員 (00447278)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2015-03-31
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キーワード | 超対称性 / レプトンフレーバーの破れ / 電弱対称性の破れ / 真空構造 |
研究概要 |
超対称模型の真空構造を解析し、超対称性の破れに起因するレプトンフレーバーの破れの大きさに関する制限を調べました。最小超対称標準模型の枠内でディラック型とマヨラナ型のニュートリノを考え、それぞれに対応した二種類の質量生成機構に対して解析を行いました。解析の際にはニュートリノ振動実験と矛盾しない質量の三つのパターンの全てについて行い、当時まだ未定であった混合角の値をいろいろ変えて行いました。これによりいわゆるA項と呼ばれるパラメーターとスニュートリノの質量の関係に対しての制限を導きました。この研究ではA項と呼ばれる項の一つが大きいという仮定を用いましたが、その場合に対するパラメーターへの制限を定量的に明らかにする事が出来ました。今後はこの結果を足がかりにより一般的なパラメーターの値に対しての解析を行っていくと共に今年になって報告されたニュートリノの混合に関しての最新の実験結果を取り入れた解析を予定です。一方で、超対称性の破れの起源を明らかにする事を目的として真空の安定性とヒッグス粒子の質量に関する研究を行いました。特にLHC実験によってヒッグス粒子の質量が予想よりもわずかに重い可能性があると報告されたため、その様な可能性の一つして拡張された超対称模型での真空構造の解析と超対称性の破れのミラージュ伝搬機構に対する解析を行いました。真空構造の解析では、これまでに知られていなかった新たな条件を導きました。またこの条件からヒッグスの質量とくゲージ粒子との相互作用の強さに対する制限を定量的に明らかにしました。ミーラジュ伝搬機構を取り入れた解析では、現在の実験結果と無矛盾なパラメーター領域を示しました。これまでの実験結果を鑑みると拡張された超対称模型とミラージュ伝搬機構に関する研究は重要になってくると考えられ、真空構造の解析も取り入れた多方面からの解析が必要となると考えられます。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究が目指す「超対称性模型の真空構造の解析からレプトンフレーバーの破れと超対称性の破れの起源の解明」に向けて、先ずはレプトンフレーバーの破れを含めた解析が必要でした。レプトンフレーバーの破れの取り入れ方にはいくつか方法がありますが、最も良く研究されているディラック型、マヨラナ型と有効質量項を加えた模型に対して解析を行い、どの様なパラメーター領域に誤った真空があるかを明らかにしました。また合わせて電荷やカラーを破る誤った真空に関しても同様の解析を行い、統計的に真空構造を解析する事で誤った真空の場所が理解出来る様になりました。これで今年度の研究の第一段階は達成出来ました。一方で超対称性の破れの起源の解明のためには、電弱対称性の破れが超対称模型の中でどのようになっているかを理解する必要があり、この点に関しても真空構造の観点から解析を行いどの様なパラメーター領域に誤った真空が現れるのかを明らかにしました。その後LHC実験によって得られた最新結果を考慮にいれ、Next-to最小超対称模型の枠組みでミーラジュ伝搬機構を仮定した場合に、誤った真空をうまく避けつつ実験結果を説明する事を明らかにしました。当初の予定では実験結果はもう少し後に出るものと期待していましたが、予想よりも早く出たため超対称性の破れの起源の研究の方も同時並行で行い、これまでの研究成果を応用してその意味するところに関しての知見を得る事が出来ました。次のステップとして遷移寿命の計算を行う必要がありますが、こちらの方はLHC実験の結果に対する研究を先行させたたため少し遅れています。しかし遷移寿命の計算手法についての理解が進んで来ているので、来年度中には達成出来ると期待しています。
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今後の研究の推進方策 |
これまではレプトンフレーバーの破れと超対称性の破れをそれぞれ独立に解析して来ましたが、今後は両者を同時に扱い、両方の破れの起源に関する知見が得られる様にして行きます。現在LHC実験が進行中であり、今後は超対称粒子と電弱対称性の破れに関して多くの結果が報告されると期待しています。またレプトンフレーバーの破れに関しても、ニュートリノ振動実験から新しい結果が出されており、今後より精密に測定されると期待しています。さらには暗黒物質に関する実験結果も報告されると期待しており、これらの状況を踏まえ、これまでの研究成果をこれらの実験結果に応用し、レプトンフレーバーの破れと超対称性の破れの起源に関する手がかりを探って行く予定です。そのためには先ず真空間の遷移寿命の計算を行い、より正確にパラメーター領域を制限する必要がありこれを行います。その後、真空構造の解析結果を取り入れた数値シュミレーションを用いてLHC実験の結果の解析を行って行きます。これに関しては今年度中に超対称粒子が見つかった場合には、超対称性粒子とヒッグス粒子の質量を説明する様な枠組みに対して解析を行います。また見つからなかった場合には、超対称粒子は重いと考えられるので、パラメーター間の微調整の度合いが小さい超対称性の破れの伝搬模型を解析して行きます。一方でニュートリノ振動実験からの結果を説明する様な模型を調べ、超対称性の破れの伝搬機構と合わせる事でどの様な模型でのレプトンフレーバーの破れが真空構造と矛盾しないかを調べて行きます。これらの研究により、レプトンフレーバーの破れと超対称性の破れを同時に調べて行きます。
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次年度の研究費の使用計画 |
昨年度に出席しようと考えていた研究会に別件での予定が入ったため出席出来ず、そのための旅費が残額として残りました。今後の研究の推進方策で述べた様に、今年度は昨年度以上に多方面から多くの実験結果が報告されると期待しています。このため国際会議や研究会に出席をして最新の情報を得ると共に、それぞれの分野の専門家らとの議論をして行く予定です。このための旅費と専門家をセミナーに呼ぶための謝金の一部としてこの分を使用します。
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