研究課題/領域番号 |
23740197
|
研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
松浦 壮 慶應義塾大学, 商学部, 准教授 (70392123)
|
キーワード | 超対称性 / 数値計算 / 格子ゲージ理論 / 行列模型 |
研究概要 |
平成23年度の実績概要で述べたように、我々は、4次元時空を2次元格子と2次元ファジー球面の直積として実現できる事を示した。平成24年度は、この変形を施す前の2次元N=(8,8)超対称ヤン・ミルズ理論をCKKU法を用いて格子上に定義し、実際に数値シミュレーションを行った。意味のあるシミュレーションを実行するために最も注意が必要な点は、スカラー場が持つ平坦方向のコントロールである。超対称ヤン・ミルズ理論は、その特性上、どうしてもスカラー場に平坦方向が生じるため、何も工夫をせずにシミュレーションを実行すると、スカラー場の真空期待値が大きく変動してしまい、必要な連続理論を得ることができない。そこで我々は、スカラー場に一定の質量項を導入して平坦方向をコントロールする方法を採用した。一方、超対称ヤン・ミルズ理論特有の難点として、フェルミオン・ゼロモードの問題がある。CKKU理論を採用する限り、格子理論がフェルミオン・ゼロモードを持つのは避けられないが、理論がフェルミオン・ゼロモードを持つと、作用のフェルミオン部分の寄与が自明にゼロとなってしまい、数値計算を行うことができなくなってしまう。そこで我々は、フェルミオンにも質量項を導入して、ゼロモードを正則化することにした。ところが、理論的な考察から、フェルミオン場に大きな質量項を加えると、平坦方向のコントロールが難しくなることが示唆される。将来的に4次元理論のシミュレーションを行うためにも、平坦方向とフェルミオン・ゼロモードの両方を適切にコントロール出来る質量の値を知る必要がある。我々は、両方の質量項をコントロールしながら数値シミュレーションを行い、平坦方向が正しくコントロールできていることを確かめた。また、超対称性から予言される物理量についても、その値が正確に再現されることも確かめられた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究計画に記した通り、平成24年度の目的は、2次元理論に関するシミュレーションを完成し、それを元に4次元ゲージ理論のシミュレーションを実行することであった。2次元理論に関しては、数学的に厳密に計算できる物理量を数値的に正しく再現しており、近々論文にまとめられる予定である。また、もう一つの課題であるプログラムの高速化についても、この1年で改善が見られ、MPIを用いた並列化プログラムの開発も最終段階にある。これらについては予定通りと言える。一方で、2次元格子理論の、いわゆる「符号問題」に関連した構造が予想以上に複雑であったため、その解析に多くの時間を取られ、年度内に成果を発表することが出来なかった。また、同じ理由から、4次元理論のシミュレーションに着手出来なかった。この点に関して、予定よりも若干遅れていると評価している。
|
今後の研究の推進方策 |
平成24年度から行なっている2次元理論のシミュレーションはほぼ最終段階にあり、これを完成させ、その成果を公表することが最初の目標である。また、超対称性に関するワード・高橋恒等式を評価し、連続極限において非摂動論的にも超対称性が回復することを確かめることも目標の一つである。それに引き続き、4次元理論のシミュレーションを実行する。そのために必要なプログラムの変更は容易であり、既に述べたように、プログラムの並列化もほぼ完成している。このプログラムを用いて、4次元理論の物理量を数値的に予言することが目標になる。
|
次年度の研究費の使用計画 |
本年度は、国内での研究会・学会に参加する費用として25万円程度が必要になる。また、本年度は並列計算を行うために多くのCPUが必要になると予想されるため、計算機を2台導入する費用として30万円程度が必要である。さらに、議論のために専門家を招聘するための謝金として2万円程度、専門図書の購入費として3万円程度を見込んでいる。
|