研究課題/領域番号 |
23740197
|
研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
松浦 壮 慶應義塾大学, 商学部, 准教授 (70392123)
|
キーワード | 超対称性 / 数値計算 / 格子ゲージ理論 / 行列模型 |
研究概要 |
平成25年度は、最終的な目標である、4次元N=4超対称ヤン・ミルズ理論の数値計算を実現するための基礎となる、2次元N=(8,8)超対称ヤン・ミルズ理論のコンピュータ上での振る舞いの解析、及び、そのためのアルゴリズムの改良を行った。 「研究計画」でも述べているように、我々は、格子上に定義された2次元ゲージ理論の上に非可換球面を実現し、格子2次元+球面2次元の4次元ゲージ理論を実現することを目指している。その際、理論的な解析から、2次元格子の連続極限を正しく取ることが重要であることがわかっている。そして、平成24年度までの成果から、そのために必要な操作が最初の想定よりも複雑であることがわかっていた。平成25年度は、既存のCKKU模型を使って各種のパラメータを調節し、連続理論がとれていることが確認できる物理量を計算した。これらの計算は概ね終了しており、現在、データの処理を行い論文にまとめている。 我々はまた、アルゴリズムの改良を行った。現在、超対称ゲージ理論の数値計算を行うためのアルゴリズムには、前述のCKKU模型と杉野模型の2種類がある。これらは一長一短で、CKKU模型が比較的シンプルな構造を持ち、プログラムの実装が容易である反面、連続極限を取る際に多くの操作が必要なのに対して、杉野模型は、連続極限を取る際に必要なパラメータは少なくて済む反面、素朴に理論を作ると多数の物理的でない真空状態が存在してしまい、物理的な真空に状態をとどめるためのプログラムが非常に複雑になるという欠点があった。我々は今回、杉野アルゴリズムに存在する無数の真空を自動的に避ける新しい手法を開発した。これによって杉野模型の実装が容易になり、物理的に性質の良い杉野模型が現実的に使いやすくなった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
「研究目的」で述べたように、平成25年度の目標は、4次元N=4超対称ヤン・ミルズ理論を正則化する方法の中で数値計算に適したものを選び出し、その上で計算機によるシミュレーション方法を確立することにある。そして、既に述べたように、アルゴリズムの候補はCKKU模型と杉野模型である。これまでの研究によって、CKKU模型の連続極限をとるための手続きはほぼ確立することが出来、この点は予定通りである。同時に、CKKU模型の連続極限を取るプロセスが最初の予想以上に複雑なことも明らかになった。これもまた想定されていた困難の一つであり、その場合は杉野模型を模索することが当初から計画されていた。実際、杉野模型は元々不要なモードを含んでおらず、連続極限を取る操作はCKKU模型よりも単純である事が予想される。そして、杉野模型を複雑にしていた真空の縮退の問題も我々の研究によって解決された。従って、アルゴリズムを杉野模型に変更して数値計算を行う準備は既に整っていおり、その意味では、研究は予定通りの路線で進んでいると言える。しかしながら、最初の予定では、この段階で既に4次元ゲージ理論のシミュレーションを実行し、ある程度の計算結果を出している時期である。また、CKKU模型の結果をまとめる論文の執筆も予定通りに行っていない。その意味で、予定よりも若干の遅れが生じていると評価している。
|
今後の研究の推進方策 |
平成26年度の最初の目標は、CKKU模型の結果を論文の形にまとめることである。また、我々は現在、2次元格子理論の改良にも取り組んでいる。これはこの研究計画を立てた当初には想定していなかったが、これを完成させることで、ゲージ理論の位相的な性質に格子理論からアプローチできるようになるため、計算機を使った超対称ゲージ理論の研究の幅が大幅に広がる。そこで我々は、このアプローチで杉野模型を改良し、その上で4次元超対称ゲージ理論の数値計算を行う予定である。
|
次年度の研究費の使用計画 |
専門図書は図書館の資料を使うことで購入せずにすみ、また、宿泊費の安いホテルに滞在することで国内出張旅費を押さえることが出来たため。 平成26年度は最終年度に当たるため、成果発表のために学会・研究会に参加する予定である。そのための旅費として30万円程度が必要になる。また、並列計算のための計算ライブラリを購入する費用として7万円、コンパイラや数値計算ソフトのライセンス更新費として17万円、議論のために専門家を招聘するための謝金として4万円程度、専門図書の購入費として4万円程度を見込んでいる。
|